SIHHとバーゼルワールドが2020年から再び連結開催に

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はた迷惑な争いに12年ぶりにようやく終止符。SIHHとバーゼルワールドが2020年から再び連結開催に

Text & Photographs by Yasuhito Shibuya




 日本時間2018年12月19日午前1時(スイス時間18日17時)、珍しく深夜にPCの前に座っていたら、バーゼルワールドからメールでプレスリリースが届いた。

「2020年からSIHHとバーゼルワールド、時計業界の2大メジャーイベントはカレンダーを合わせます……」

 2020年ということは実に12年ぶりに、分離開催から連結開催に戻ることになる。僕みたいな古株(になってしまった)の時計業界の関係者は「やれやれ、やっとか。なんでもっと早くできなかったのか」と思っていることだろう。

 読者の中にはご存じない方もおられるだろうが、僕がスイス時計取材を始めた1995年以前から2008年まで、SIHHとバーゼル・フェア(現バーゼルワールド)は毎年4月中旬から下旬にかけて(年によっては終了が5月初旬になることもある)、期間が重複する日程で開催されていた。SIHHは1991年にカルティエがバーゼル・フェアを観た顧客をジュネーブまで連れていくかたちで始まったが、両者は世界中から集まるバイヤーやリテーラー、プレスの都合を考え、独立開催になった後も開催時期を協議。1回のスイスへの渡航でどちらも観られるスケジュールを組んでいたのである。ところが2008年、SIHHは2009年1月の開催を表明。2大時計フェアを取材するためには、1月と3月、2回の渡航が必要に、つまりエアチケット代が2倍になった。

 その理由は僕のようなプレスにとって、特にフリーランスのプレスにとって迷惑千万なもの。「バイヤーの買い付け予算は限られている。先にバイヤーを招いた方が有利だから、早い時期に開催したい」というふたつのフェア主催社と出展社の思惑、開催時期を巡る争いだった。

 1995年、僕が最初に2大フェアを取材した時はSIHHが先でバーゼル・フェアが後。連結開催最後の2008年はバーゼルワールドが先でSIHHが後。開催順は数年ごとに変わり、バイヤーやリテーラー、プレスはひとつのフェアが会期末になると、鉄道やクルマでスイスを縦断、もうひとつのフェアに大移動したものだ。


2008年当時のバーゼルワールド。取材を終えると皆、ジュネーブに一斉に移動した。

2009年1月、バーゼルワールドとは分離開催となった最初のSIHH。雪が降るジュネーブの寒さに驚いたものだ。


 そして2009年、SIHHは1月中旬から下旬の開催となった。例年の3月からここまで開催時期が早まったのは会場である国際展示場、ジュネーブ・パレクスポの年間スケジュールのためだ。ここでは毎年3月にジュネーブモーターショーが開催されている。そのため、3月中旬のバーゼルワールド前に開催したくても開催は難しい。だったら寒いけれど、会場が空いている1月に、となったのだと言われている。

 しかし時計フェアは今、その存在価値を問われている。フェアの空洞化や、その先に起きるかもしれない中止、消失は、1990年代から続いてきたスイス時計産業の成功に終止符を打つかもしれない。
 また、新作時計の受注戦争は、もはやフェア会場が主戦場ではなくなりつつある。開発スケジュールの短縮やロジスティックスの劇的な改善で、新作時計のバイイングの多くはフェアよりかなり以前に、例えば2019年に発売予定モデルのプレゼンテーションと受注が2018年中にすでに終わっていることも珍しくない。
 この状況で従来同様に争いを続けるより、握手をしてバイヤーやリテーラー、プレスを共に迎える体制を整えた方が賢明だし、必要だ。

 2大時計フェアとその出展ブランドは、ようやくこの結論にたどり着いたのだろう。

 2大時計フェアの連結開催は、2017年あたりから噂もあり、かすかな期待はあったが、正直なところできると思っていなかった。海外のバイヤーやリテーラー、僕のようなプレスにとってはうれしいし、ありがたい。歓迎したい。
ただ、気がかりもある。それは開催期間が短縮されたままであることだ。
この限られた期間の中で、時計フェアはどうあるべきか。何をどう見せて何を伝えるのか。再考の時期を迎えていることは間違いないからだ。

 古いと言われるかもしれないが、僕にとって時計フェアの価値や魅力、また時計フェアに出かける意味は、ネットの動画では分からない、スイス時計が生まれる空気、職人技を会場や開催期間前後に訪れる製造現場で、全身で感じることにある。そこにラグジュアリーが生まれる瞬間があるからだ。

 せっかくふたつのフェアがまたつながるのだから、そんな体験をふたつのフェアがそれぞれに、それなりにさせてくれるものになってくれたらと思う。時間をかけて、徐々にでも。

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