グランドセイコーを未来へとつなぐ温故知新の創造力

時計特集

スプリングドライブ誕生20周年に見せた内外装のハイライト

今や、グランドセイコーには欠かせない“エンジン”となったスプリングドライブ。その誕生20周年を祝うべく、セイコーはふたつの新たなコレクションをグランドセイコーに追加した。ハイエンドを追求したエレガンスコレクションと、獅子をデザインモチーフにした数量限定のスポーツコレクションである。いずれもグランドセイコーに新風を吹き込み、来年60周年を迎えるグランドセイコーを未来へとつなぐ“橋渡し”として新機軸を担うコレクションだ。

エレガンスコレクション スプリングドライブ 20周年記念モデル SBGZ001

エレガンスコレクション スプリングドライブ 20周年記念モデル SBGZ001
グランドセイコーのフラッグシップモデル。新規設計のCal.9R02を搭載するほか、新しい仕上げ手法も盛り込んだ。ケース全面に施された雪白仕上げは、手作業でひとつひとつ彫り込んだもの。手巻きスプリングドライブ。39石。パワーリザーブ約84時間。Pt950(直径38.5mm、厚さ9.8mm)。日常生活防水。世界限定30本。グランドセイコーブティック専用モデル。800万円。7月6日発売予定。
奥山栄一、三田村優:写真 Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

 1999年にリリースされたスプリングドライブは、機械式時計の強いトルクと、クォーツムーブメントの高精度を併せ持つまったく新しい機構であった。加えて、このメカニズムは、完全な無音とスイープ運針という特徴も持っていた。スプリングドライブの個性を強調すべく、セイコーエプソンの開発陣はスプリングドライブの高級化に着手。以降、同社の高級時計製造部門であるマイクロアーティスト工房は、クレドール「スプリングドライブ ソヌリ」や「叡智」といった傑作を次々とリリースした。

 スプリングドライブ誕生20周年を迎えた2019年、セイコーはその集大成と言えるモデルを発表した。その名はグランドセイコー「エレガンスコレクション スプリングドライブ20周年記念モデル」。マイクロアーティスト工房は、現時点でできうるすべての技巧をこのモデルに投じたのである。本作が搭載するのは新しい手巻きキャリバー9R02。これは「叡智Ⅱ」が搭載した7R14の改良版にあたり、より長いパワーリザーブと優れた仕上げを持つ。

SBGZ003

SBGZ003

シンプルなSBGZ003。文字盤とケースからは雪白仕上げが省かれた。しかし、搭載するCal.9R02や14KWG製のインデックスなどはSBGZ001に同じ。基本スペックもSBGZ001に準じる。なお、文字盤と針のクリアランスをギリギリまで詰めるため、Cal.9R02は筒カナも新規設計されている。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン専用モデル。600万円。7月6日発売予定。


Cal.7R14

際立った仕上げを持つ、手巻きスプリングドライブのCal.9R02。ベースは叡智IIが搭載したCal.7R14だが、トルクリターンシステムの改良に加えて、主ゼンマイを2枚重ねにすることでパワーリザーブを約84時間に延ばしている。受けは洋銀製。マイクロアーティスト工房製の時計らしく、上面にはごく浅く、筋目仕上げが施されている。

 主ゼンマイがフル巻き上げの状態からしばらくの間は、トルクに余裕がある。そこで精度と運針に影響の出ない主ゼンマイトルクの約30%を使って、主ゼンマイが自らを巻き上げる。これが本作にも採用されたトルクリターンシステムの概要だ。加えて、主ゼンマイを垂直方向に2枚重ねるデュアル・スプリング・バレルにすることで、9R02は約84時間もの長いパワーリザーブを持つに至った。普通、垂直方向に主ゼンマイを重ねるとムーブメントの厚みは増す。しかし、開発陣はふたつの主ゼンマイの幅を最小限にすることで、香箱の張り出しを極力抑えたのだ。

7R08 トルクターンシステム
パワーリザーブ機構
セイコーエプソンが開発し、2008年に発表された叡智のCal.7R08に搭載されたのが、トルクリターンシステム(TRS)である。Cal.9R02では、主ゼンマイのトルクに余裕がある48時間までは、ほどける力で主ゼンマイを再度巻き上げ、パワーリザーブを延長している。TRSはパワーリザーブ機構に連動しており、48時間経つと、太陽車の突起によりTR切り離しレバーが動き、それがトルク返還車のクラッチを切り離して、香箱車と角穴車の連結をカットする。機械式時計にも転用可能なメカニズムである。

 マイクロアーティスト工房のお家芸たる仕上げもいっそう洗練された。具体的にはクレドール「叡智」の込み入った面取りと、後継機である「叡智Ⅱ」の深い面取りを、新しい9R02で両立させたのである。受けの素材は、これまでのマイクロアーティスト工房製のムーブメントに同じく洋銀だ。だが、表面の筋目仕上げを複数回から1回に減らすことで面取りの幅がより深く残るようになったほか、周囲のダレも抑えられた。さらに〝特殊な技法〞を使うことで面取りはほぼ完全なブラックポリッシュとなった。語るべきポイントはまだある。耐震装置のバネには筋目仕上げが施され、それを支える18Kゴールド製の枠にも完全な鏡面が与えられた。正直、日本製のムーブメントで、ここまでの仕上げを持つものは、かつて存在しなかった。

 この傑出したムーブメントをくるむ外装も同様にかなり凝っている。本作の針とインデックスは、真鍮ではなく14KWG製である。今までもゴールド製インデックスを採用したモデルは存在したが、今回はあえて表面処理のロジウムメッキを省いたという。理由は、金無垢の質感を活かして、よりシャープなエッジを見せるため。メッキを重ねるといっても、たかだか数ミクロンの厚みしかない。しかし製作者たちは、針とインデックスのエッジを強調すべく、そのわずかな厚みをも嫌ったのである。結果、針とインデックスのエッジの立ち方は類を見ない。

 ロゴと秒・分目盛りの処理も凝っている。いずれもプレスやエッチング、手彫りではなく、あえての機械彫りだ。写真の通り、ビレつまり切削痕はまったく見られない。他社にも採用例はあるが、まったく痕跡がないものは、これが初めてだろう。

SBGZ001は、ケースと文字盤に雪白仕上げが施される。上の写真の左に見えるのは、槌目模様をケースに施したかつての56GS。その手法は雪白仕上げとは異なり、槌を当てて仕上げている。このアイデアが、今回のSBGZ001のケース仕上げに反映された。中央のケースは試行錯誤しながら加工されたサンプル。その右が、ケースに切削とザラツ研磨を施した後、手作業でひとつひとつ雪白模様を彫り込んだSBGZ001。下の写真は、今回のPtモデルが採用した文字盤。左はSBGZ003用、右はプレスで雪白仕上げを施したSBGZ001用。多面カットされたアワーインデックスはすべて14KWG製。かつてのグランドセイコー金無垢モデル同様、極めて立体的な秒・分目盛りを持つ。

 SBGZ001は、ケースにも新しい試みを採用した。文字盤はスプリングドライブではおなじみの雪白仕上げ。プレスして、風紋の刻まれた雪を再現している。今回は、その雪白仕上げをケース全体にも施したのである。ただ、立体的なケースにプレスはできない。そこで、職人がひとつひとつ削り目を施して、文字盤との一体感を出している。かつてのグランドセイコーに見られた仕上げを、ケース全体に再現したわけだ。削りすぎると戻せないため、1回1回が完全な勝負となる。また、ケースサイドの稜線を削ってしまうと、造形は変わってしまう。道理で30本しか作れないはずである。

 いわば、マイクロアーティスト工房が持てるすべてを投じたプラチナケースの限定モデル。なぜここまで凝ったのかをデザインを担当した星野一憲氏が明かしてくれた。「現在、私たちはグランドセイコーの歴史をひもといているところです。そこで学んだ過去の仕上げを、今の技術で再現しようと考えています。それが多面カットされた14Kゴールド製のインデックスや針、そしてケースの雪白仕上げですね」 過去に学び、今の技術を投じて生まれたグランドセイコー「エレガンスコレクション スプリングドライブ20周年記念限定モデル」。その佇まいは群を抜いて際立っている。

Cal.9R02

組み上がった状態のCal.9R02。主ゼンマイをふたつ重ねた結果、香箱部分が少し飛び出しているのが分かる。洋銀製の受けは厚さ0.75mm。表面を紙やすりで軽くなで、1/100mm程度削り落とすことで、筋目模様を付けていく。複数回施さないため、面取りの幅は深く残るようになったほか、エッジのダレも見られない。面取りに与えられたほぼ完全なブラックポリッシュ仕上げにも注目。

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