【ARNOLD & SON】独創的なウォッチメイキングを支える ふたつの巧みなデザイン表現

時計特集

独創的なウォッチメイキングを支える ふたつの巧みなデザイン表現

1モデル1キャリバーを基本とし、ムーブメントありきのスタイルを貫くアーノルド&サン。直線的にカットされた三角ブリッジやシンメトリーなど独自の英国的ディテールは、スケルトンという手法と相まった時、一層輝きを増す。今年のバーゼルワールドでも、工芸的な魅力を最大限に高めた美麗なモデルを世界の時計好事家に提示した。

タイム・ピラミッド トゥールビヨン

タイム・ピラミッド トゥールビヨン
宙に浮いているような3次元ムーブメントは奥行きがあり、動きも仕上げも見ごたえ十分。インデックスはサファイアクリスタルディスク上にアワー表示、ロジウムプレーテッドリング上にミニッツ表示を配し、リュウズは6時位置に収めてシンメトリカルなデザインを完成させた。
(右)手巻き(Cal.A&S8615)。31石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KRG(直径44.6mm、厚さ10.09mm)。3気圧防水。世界限定28本。562万円。
(左)SS(直径44.6mm、厚さ10.09mm)。世界限定28本。446万円。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
大野高広:文 Text by Takahiro Ohno

 トゥールビヨンのキャリッジが12時位置で小気味よく回転し、7時と5時位置のダブルバレルまで縦一直線の輪列が結ぶ。独立した左右のバレルそれぞれと連結した青いパワーリザーブ表示は、前者のゼンマイがほどけて9時位置の針が下がると、後者のバレルに一部のトルクがチャージされて、3時位置の針が少し上がる。こうしたユニークな動きを構成する歯車、香箱、脱進機、テンワなどが文字盤側から鑑賞できる設計に、まず目を奪われる。

 ジョン・アーノルドと息子のロジャー・アーノルドが2世紀以上も前に作ったレギュレーターと、英国の古いスケルトンクロックにインスピレーションを得た「タイム・ピラミッド」に、新たに加わったのがこのトゥールビヨンだ。ケースサイズは変わらず、ピラミッド型に構築されたムーブメントが、まるで表と裏のサファイアクリスタルの間に浮かんでいるような趣向も不変だ。トゥールビヨン搭載により1.3㎜厚くなった手巻きムーブメントは立体感と機構的な楽しさを増し、工芸的な価値も高めた。オフセットされた時分針はサファイアクリスタル製のダイアル上をゆるやかに回り、多層レイヤーによる奥行きを際立たせる。

アーノルド&サンは、高精度マリンクロノメーターで有名なジョン・アーノルドと、アブラアン-ルイ・ブレゲの工房で修業した息子の時計作りからインスピレーションを得たブランド。ジョンの死後、ブレゲの最初のトゥールビヨン脱進機がジョンの懐中クロノメーターに搭載され、ブレゲにより息子のロジャーに贈呈された。そんな逸話を思い起こさせる同作は、好事家たちの歴史的な好奇心をも強く刺激する。

 実物を手に取ると、ポリッシュ仕上げのエッジやコート・ド・ジュネーブ、サーキュラー仕上げの歯車など、アーノルド&サンらしい緻密な装飾に気付く。腕に載せると直径44.6㎜のサイズながらに手首になじむのは、前面から裏側に行くほどケース径がしぼられたすり鉢形状になっているからだ。また、装着時に肌の見え具合を調整できるよう、サファイアクリスタルバックをクリアやグレー等から選択できるなど、スケルトンモデルに手慣れた同社ならではの気配りが行き届く。

 メカニズムを〝魅せる〞ことに関して、同作が傑出している背景には、ラ・ジュー・ペレと同じグループであることが大きい。超高級ムーブメント作りのノウハウと設備を生かすことで、アーノルド&サンは「1モデル1キャリバー」の方法論を確立し、他モデルへの使い回しは良しとしない。輪列のレイアウトを含めて、デザイン先行で各モデル専用のムーブメントを先に開発し、それに合わせてケースを作るのだ。スケルトンやシンメトリーといった同社らしい表現方法も、コストを抑えながら徹底的に追求することができる。

ネビュラ 38mm

ネビュラ 38mm
2016年初出の41mm 径から38mm径へサイズダウン。バリエーションはベゼルとラグ、ケースサイドにダイヤモンドが付くタイプ(左写真/478万円)、ベゼルにのみダイヤモンドが付くタイプ(342万円)、ダイヤモンドなし(右写真/280万円)の3種類。計50本の限定数は、あらかじめタイプ別に割り振りされているのではなく、受注が50本に達した時点で販売終了に。手巻き(Cal.A&S5101)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KRG(直径38mm、厚さ8.91mm)。3気圧防水。

 その〝シンメトリー〞を追求したもうひとつの新作が「ネビュラ38㎜」。〝星雲〞を意味するモデル名の通り、放射状に配した英国調の三角ブリッジが印象的な31.5㎜径のムーブメントはそのままに、18Kゴールドのインデックスを備えたチャプターリングを作り直して、ケースを既存の41㎜径から38㎜径にサイズダウン。上部のダブルバレルと対称的に、テンワとスモールセコンドを下部に配した巧みなレイアウトによって、左右上下だけでなく、表裏どちらから見ても見事なシンメトリーを構成する。

 ブリッジが通常の倍以上に増えることで、もちろん面取りの作業も増える。だが、コストを掛けるべきところは決して妥協しないのがアーノルド&サン流。かくして英国のDNAを宿した独創的デザインに、唯一無二の命が吹き込まれるのだ。

伝統的な英国スタイルの三角ブリッジを外周部に固定し、中央に向かって配したムーブメントが対称性の美しさを表現。例えば2時と11時位置のダブルバレルにはそれぞれ5時位置のテンワ、7時位置のスモールセコンドが呼応する。その外周には薄く斜めに作り直したチャプターリングを配し、ケース径を従来から3mm小さくした。歯車など全てのパーツはサイズや高さまで計算され、見事に調和している。


Contact info: アーノルド&サン相談室 Tel.0570-03-1764

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