薄型化のためのムーブメントとデザイン(前編)

時計特集

スリム化を追求する各社各様の方法論

2011年のトレンドとして、多くの識者が指摘する薄型時計。ベーシックなムーブメントをシンプルな造形にくるむという手堅いアプローチは、確かに保守的な消費者に好まれるだろう。しかし、薄型時計がリバイバルした理由は、何も外的な要因に限らない。各社は、薄型時計をアップデートしようと努め、結果、それは従来までの薄型時計像を大きく変えようとしている。ムーブメントとデザインという観点から、これらの“新しい”薄型時計を見ていくことにしよう。

奥山栄一、矢嶋修:写真 Photographs by Eiichi Okuyama, Osamu Yajima
広田雅将、鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota, Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
この記事は 2011年10月発売の11月号に掲載されたものです。

平板なフラット化から立体感を盛り込んだ薄型化へ

1950年代以降、薄型時計の分野で他社をリードしてきたピアジェ。確かに、薄型時計のトレンドは、ピアジェが形作ってきたといっても過言ではないだろう。とりわけ、「ピアジェ アルティプラノ」の意匠と設計は、ここ最近の薄型時計のあり方に決定的な影響を与えた。だが、影響を与えたのはその薄さではない。従来までの薄型時計とは異なる、立体感に富んだ造形と、実用性に優れる強固なムーブメントの設計。これこそが、大きなポイントだったのである。

ピアジェ アルティプラノ

ピアジェ アルティプラノ

ピアジェ アルティプラノ
アルティプラノの最新作。ケース径43mmに対し、厚さは5.25mmしかない。だが、その特徴は、薄さよりも、平板に見せない立体感の盛り込み方にある。平たく見せるという薄型時計の定石をあえて破った意欲作。また、老舗らしく、時計としての完成度も際立って高い。初出2010年。自動巻き。18KWG。238万3500円。

 1970年代まで、時計のトレンドは一貫して薄型化であった。少なくとも、多くの時計メーカーにとって、薄型ムーブメントを製造・組み立てできることが、ある種のステイタスだったと言える。クォーツウォッチの普及以降、各社の薄型化への取り組みは、いっそうの真剣味を帯びることとなった。初期のクォーツウォッチは薄くすることが難しかったため、精度で劣る機械式ムーブメントは、薄型時計に活路を見いだすほかなかったのだ。各社はフレデリック・ピゲ(キャリバー171など)やプゾー(キャリバー320など)の薄型エボーシュを買い集め、自社でケーシングした。この時代、いかに薄型化への圧力が強かったかは、あのロレックスでさえ、薄型ドレスウォッチの「チェリーニ」(1968年)を発表したことからも想像できよう。

 70年代以降の薄型時計には大きな特徴があった。薄さを強調するため、意図的に平たい意匠を持っていたのである。70年代に風防素材としてサファイアクリスタルが普及したのも、強度に加え、薄さを強調するのにふさわしい素材だったためだろう。しかし、80年代に入ると、セイコー、シチズン、ETAが極薄クォーツウォッチの開発に成功。以降、薄型時計と薄い機械式ムーブメントの価値は急速に失われていった。

 薄型時計のリバイバルはいつ始まったのか。時計業界に影響を与えたという点では、先駆者はピアジェのアルティプラノ(1998年)だろう。この時計が新しい理由は大きくふたつあった。アルティプラノが載せたキャリバー430Pは、薄型ながらも、かなり強固な構造を持っている。ブリッジを一体化して剛性を持たせるという手法は、以降の薄型ムーブメントがこぞって追随したほか、ヴァル フルリエを通じて、リシュモン グループのムーブメント設計にも影響を及ぼした。外装も目新しかった。50年代の時計に範を取ったアルティプラノは、わずかにボンベ状の文字盤を持っていた。だが、後のピアジェを見るに、これはレトロさを演出するためではなく、明らかに立体感を強調する手法だと分かる。薄型ながらも、ボンベ文字盤によって立体感を強調した時計としては、パテック フィリップのRef.5196などがあるが、ピアジェ アルティプラノの方が早かった。

 こういった方向性は、最新の自動巻きモデルでより顕著だ。ダイアルはダブルサンク(文字盤中央とスモールセコンド部分が下げられている)となり、いっそう立体感を増した。また、ストラップとケースの間隔が詰められたことで、時計はより間延びを感じさせない造形となった。

 ピアジェが先鞭を付けた立体感のある意匠と強固なムーブメントの組み合わせ。これこそが、現在の薄型時計のトレンドである、と言っていいだろう。

Cal.1208P

Cal.1208P
マイクロローター搭載の自動巻き。手巻きのCal.430P/830P系の輪列を巧みに転用。できるだけ一体化した強固な受けは、ピアジェというよりも今の薄型ムーブメントの特徴である。初出2010年。直径29.9mm、厚さ2.35mm。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。
Cal.430P

Cal.430P
後に決定的な影響を与えた薄型手巻きムーブメント。ほとんど一体化した受けは審美性にこそ欠けるが、半面、剛性は高い。薄型ムーブメントとしては珍しい2番車が大きくオフセットした輪列を採用。直径20.5mm、厚さ2.1mm。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。

ピアジェ アルティプラノ

ピアジェ アルティプラノ
現代を代表する薄型時計。1950年代の時計に倣った意匠を持つが、ボンベ状の文字盤など、従来の薄型時計にはなかった斬新な造形を盛り込んでいる。また、頑強なムーブメントは、この極薄時計に優れた実用性をもたらした。初出1998年。手巻き。18KWG(直径38mm)。3気圧防水。162万7500円。

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