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消費増税前、果たして「駆け込み需要」は盛り上がるのか

前回の消費増税時には、駆け込み需要で盛り上がった高級時計・宝飾業界。だが、次なる増税を目前に控え、今なお、不透明感が漂うのは否めない。他業界に比して増税の影響を大きく受ける時計業界。そんな気が気でない関係者に気鋭の経済ジャーナリスト、磯山友幸氏が、不透明な中にも、拠り所となる指針を示す。

磯山友幸:取材・文 Text by Tomoyuki Isoyama
UPI/アマナイメージズ:写真 Photograph by UPI/ amanaimages

2014年4月、5%から8%に消費税率を引き上げたのは安倍内閣であった。だが、10%への消費増税を14年11月と16年6月の2度にわたって延期したのも安倍内閣である。写真は、16年7月10日の参院選投開票日、自民党開票センターで当選確実となった候補に花をつける安倍首相。「アベノミクス」に理解を得られたと語り、勝利宣言。

 2019年10月1日の消費増税まであと4カ月。税率がこれまでの8%から10%に、一部の軽減税率品を除いて引き上げられることから、特に価格が高い宝飾品や高級時計などの「駆け込み需要」が予想されている。

 2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた際には、増税の半年ほど前から売り上げが大きく伸び、直前の3月にはショーケースが空になったと言われるほどの売れ行きとなった。例えば、日本百貨店協会がまとめた全国百貨店売上高の、「美術・宝飾・貴金属」部門の対前年同月比の伸び率は、6カ月前の2013年10月から19.7%増→11月21.0%増→12月15.5%増と高い伸びが続き、3カ月前の2014年1月には22.6%増、2月には24.5%増となり、直前の3月には113.7%増つまり2.14倍に急増した。

 税抜き100万円の時計を買えば、消費税だけで3万円の差が生じるわけだから、こぞって駆け込んだわけである。

 今回は増税幅が2%分なので、前回よりインパクトは小さいものの、それでも100万円で2万円の差が生じる。当然、1000万円ならば20万円高くなるわけだから、欲しいものがあるお金持ちにとっては、購買を促す大きなきっかけになる。

 果たして、今回も増税前「駆け込み」の大ブームはやってくるのだろうか。

 スイス時計協会の2019年3月の国・地域別輸出額によると、日本向けが1億3710万スイスフラン(約149億円)と前年同月比21.8%も増加、香港、米国、中国に次ぐ4位になった。中国は17.3%増の1億4160万スイスフランだったが、何と伸び率は中国を上回り、金額でも肉薄している。

 5位の英国は1億3470万スイスフランで76.4%も増え、日本を猛追しているが、これは3月末でブレグジットの期限を迎えることになっていたため、ディーラーが一気に在庫を積み増したのが要因と見られる。スイス時計協会でも「ブレグジットに伴う特殊なケース」と指摘している。

 では、21.8%の増加となった日本向けはどう分析すればよいのか。日本の消費が急回復しているからではないだろう。「駆け込み」の再来を見越したディーラーが、在庫を積み増したと見るのが妥当ではないか。何せ、前回は直近に例年の2倍以上の売れ行きを示したのである。モノがなければ商売にならない。

 だが、足元の消費はいまひとつ盛り上がっていない。増税まであと半年と迫った今年4月の百貨店の「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高伸び率は、前年同月比で8.8%増。前回半年前の19.7%増には及んでいない。

 自動車などは反動減対策で、増税後に減税措置などが用意されているので、伸び率が低いのは分かる。だが、高額商品にはこうした恩恵はないから、本来ならば駆け込み需要が盛り上がってもよさそうなものだ。

 なかなか駆け込みが生じないのは、本当に増税するのか、疑心暗鬼になっている人が多いからかもしれない。

 内閣府が5月13日に発表した、3月の景気動向指数(CI)の速報値では、2015年を100として景気の現状を示す「一致指数」が99.6と、前月より0.9ポイントも下がった。指数の推移から機械的に決まる基調判断が、2013年1月以来6年2カ月ぶりに「悪化」となったのである。また、5月20日に発表された1~3月の国内総生産(GDP)はプラスになったものの、輸入が減ったほか、消費の弱さが目立つなど、景気鈍化が鮮明になった。7月の参議院議員選挙を控えて、政界ではまたしても安倍晋三首相が消費増税を見送るのではないかという見方が出始めている。

 時計や貴金属などは、たいがいその場で購入ができるので、住宅や自動車などと違って増税を見込んで早めに手当てをする必要はない。前日までにショップで買えばよいのである。おそらく増税が本決まりとなってから、駆け込み需要が一気に表面化するということになるのかもしれない。

磯山友幸
経済ジャーナリスト。1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末に独立。著書に『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。現在、経済政策を中心に政・財・官界を幅広く取材中。
http://www.hatena.ne.jp/isoyant/


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