GMT進化論 (前編)

時計特集

機構別に考えるユーティリティの実際

1937年に登場したルイ・コティエの「ワールドタイム」は、50年代の中頃に表示機能を整理することで、ホームタイムとローカルタイムのふたつだけを表示する「GMTウォッチ」へと姿を変えた。センターに配置された24時間表示のGMT針と、それに対応する回転ベゼルの組み合わせで、任意に選択された2カ所以上の時間帯を指し示す、あらゆる“第2時間帯表示モデル”の基本形である。再びセンター針仕様のGMTウォッチが注目を集める昨今、その機能に的を絞って分類を試みる。

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
鈴木裕之、細田雄人(本誌):文 Text by Hiroyuki Suzuki, Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
この記事は 2018年12月発売の1月号に掲載されたものです。

Gr.1.0
時針連動型24時間副時針 + 両方向回転ベゼル=2カ国表示

時針と副時針が完全連動するGMTウォッチの初期グループ

GMTウォッチ本来の姿とは、センター同軸に配置された24時間副時針にホームタイム(=GMT)を表示させておき、通常の時分針がローカルタイム(=現地時間)を指し示すことが基本。しかし、時針または副時針の単独調整機構が登場した1980年代以降は、その使用方法とスタイルが急速に多様化を始めた。本稿では現行GMTウォッチを機能別に6つのグループに分類し、その特性を見てゆく。

ロレックス オイスター パーペチュアル GMTマスター[Ref.16700]

ロレックス オイスター パーペチュアル GMTマスター[Ref.16700]
ワールドタイマーに代わる、視認性の優れた複数時間帯表示機構が欲しいというパン・アメリカン航空の依頼を受けて、1954年に誕生したGMTウォッチの始祖的存在。複数のモデルチェンジを経て、98年の生産終了まで40年以上生産された。写真は90年代後半に生産されたRef.16700。自動巻き(Cal.3175)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径40mm)。100m防水。コレクター私物。

 鉄道や通信の技術が急速に発達を始めた19世紀半ば、人々はようやく土地土地でバラバラだったローカルタイムの不便さに気付き始めた。さまざまな紆余曲折を経た1884年10月1日、米国ワシントンで開催された「国際子午線会議」の席上、25カ国41名の代表者が3週間にも及ぶ議論を闘わせた結果、ついに世界は24のタイムゾーンに分割されることになる。英国グリニッジ天文台を通る子午線が、正式に本初子午線と定められたのである。現在でも使用されている国際標準時が、GMT(グリニッジ・ミーン・タイム)と呼ばれる所以である。ごく一部の例外を除き、24のタイムゾーンには、経度15度ごとに1時間の時差が定められた。グリニッジを基準として、東側がプラス、西側がマイナスの時差である。グリニッジから見て〝極東の島国〞に住む我々は、「GMT+9時間」というローカルタイムを使って、日々の生活を営んでいるのだ。
 
 24分割されたタイムゾーンと、隣り合うタイムゾーンの時差が1時間という基本的なルール。これを初めてダイアル上に再現した時計師がルイ・コティエであった。ジュネーブ近郊のカルージュで19世紀から続く時計師一家に生を受けた彼は、1931年までマイスター(国家認定職人)としてさまざまなブランドで働いた後に独立。複雑機構やオートマタを手掛ける傍ら、〝世界時計〞の現実化に情熱を傾けた。その成果の最たるものが、我々のよく知る「ルイ・コティエ様式のワールドタイム」である。これは日の裏輪列に加えられた減速車で駆動される24時間表示リングと、ダイアルに刻まれた28の都市名を組み合わせることで、全世界の時刻を一望できるというものだった。

ショパール L.U.C GMT ワン

ショパール L.U.C GMT ワン
現行品としては珍しい、GMTタイムの設定を24時間ベゼルのみを用いて行うシンプルなモデル。24時間表示はインナーベゼルのため、4時位置のリュウズで回転させる。よって、意図せずGMTタイムを変更してしまう恐れが少ない。自動巻き(Cal.L.U.C 01.10-L)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径42mm)。50m防水。117万円。問ショパール ジャパン プレス☎03-5524-8922

 後に都市名を刻んだベゼルを回転させることで、欲しい時間帯を見やすい位置に調整できるタイプへと進化。腕時計に関して言えば、両タイプともに37年に完成。ベゼルに刻まれた都市名は、後年には41まで増えることになる。独立工房を構えていたルイ・コティエは、ジュネーブ近郊のさまざまなブランドから依頼を受けて、このタイプのワールドタイムを作り続けた。パテック フィリップが特に有名だが、ヴァシュロン・コンスタンタンやアガシ、そしてロレックスもコティエの大切な顧客であった。

 ロレックスがコティエのワールドタイムを搭載した腕時計を発表するのは1945年のことである。しかし前述のように、世界中のあらゆる時刻を同時に示すこの時計は、欲しい時間帯だけを瞬時に読み取るには、やや表示が複雑すぎた。パン・アメリカン航空がロレックスに向けて、ホームタイム(=GMT)とローカルタイムのふたつだけを表示する時計が作れないかと打診したのは53年のことである。そのリクエストはすぐさま現実化され、翌54年には最初のGMTマスターを発表。これはRef.6542として55年から一般販売が開始された。

 初代GMTマスターの基本構造は、コティエのワールドタイムと同様だ。しかし24時間表示リングは、ひとつの時間帯だけを指す24時間表示のGMT針に姿を変え、都市名を刻んだ回転ベゼルは、24時間のタイムゾーン表示へと移り変わった。機構面でひとつだけ異なったのは、減速車にピンを立てて、カレンダーを駆動させたことだ。このタイプのGMTウォッチは、ロレックスが12時間針の単独調整機構を完成させる1982年まで、第一線で活躍し続けることになる。

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