セイコー・シチズン・カシオ 国産ウォッチメーカー ネクスト戦略 (後編)

時計特集

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https://www.webchronos.net/features/10132/
奥山栄一、三田村優:写真 Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2016年3月号初出]

CITIZEN

一貫して、国産メーカーの優等生であり続けるシチズン。エコ・ドライブとデュラテクトという同社の2大技術は、シチズンの時計に非凡な実用性をもたらした。またデザインをおろそかにしない姿勢は、同社のレディースウォッチ「クロスシー」を大ヒットに導いた。しかし一面、その華々しい成功はシチズンの方向性に足かせを設けたとも言える。時間をかけ、ようやく構造改革に成功したシチズン。では今後、何をドライブとして成長するのだろうか?

カンパノラ メカニカルコレクション NZ0000-58W

カンパノラ メカニカルコレクション NZ0000-58W
今後の方向性をうかがわせるのが、ラ・ジュー・ペレ製の自動巻きを搭載したカンパノラ。シチズンならではの立体的な外装と機械式ムーブメントの組み合わせは大変魅力的だ。もっとも、シチズンの90系であればなお望ましかったか。自動巻き(Cal.Y513)。25 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。3気圧防水。53万円。

Cal.Y513

ETA2892A2の代替機であるセリタSW300に、ラージデイトモジュールを組み込んだのがCal.Y513。シチズンとラ・ジュー・ペレには、ほとんどシナジーが存在しないが、これは数少ない例外のひとつと言えるだろう。

製造部門の再編に成功したシチズン次なる一手は何を打つのか?

 一貫して、市民のための時計作りを標榜してきたシチズン。エコ・ドライブの開発に成功した同社は、主力製品をすべてエコ・ドライブに置き換えてきた。今や電波ソーラーでなければ消費者に受けないというトレンドを、シチズンが切り拓いてきたわけだ。

シチズンの時計部門を支えるふたり。左から、シチズンブランド事業部長の竹内則夫氏と時計開発事業部長の木原啓之氏。「生産体制の見直しにより意思決定が早くなりました。加えて、品質の向上は個々の部品ではなく、完成体で見ればいいという考えに変わりました」(木原氏)。「中価格帯を磨いて、5万円から10万円の価格帯を安定した状態に持っていきます」(竹内氏)。

 現在のシチズンは、大規模な構造改革を終え、体質改善を果たした状態にある。具体的には、シチズン平和時計、シチズン東北、シチズンマイクロ、シチズン時計ミヨタ、シチズン時計河口湖と時計本体の製造関連部門を一本化。時計製造を担うシチズン時計マニュファクチャリングを設立(2013年10月)したのだ。
「今までは新規開発キャリバーには5社の担当者が関わっていました。今は管理と品質担当が来るだけです。統合の結果、意思決定のスピードは速くなりましたね」(時計開発事業部長の木原啓之氏)。

 では、スリム化とスピードアップに成功したシチズンは、今後何をドライブとして営業利益率と単価を向上させるのか。時計部門の営業利益率10.4%は、製造業としては優秀だが、ヨーロッパの時計メーカーにはまだ及ばない。
「私たちは高価格帯よりも、中価格帯できちっとしたものを作っていきたいのです。今後いっそう取り組むのは、海外への展開と、外装への注力ですね」(シチズンブランド事業部長の竹内則夫氏)

 シチズンは日本と北米で非常に大きなシェアを持っている。また、インバウンド需要の恩恵を最も受けているのもシチズンと言われている。正確な数字は明示されないが、売り上げに占める比率は20%を超えるだろう、とある関係者は推測する。ただ、中国のシェアは高止まりだし、東南アジアの売上比率もまだ低い。このあたりを改善するということか。外装にいっそう力を入れるのは、デュラテクトを筆頭に外装の加工を得意とするシチズンらしい方向性と言えなくもない。とはいえ、傘下に収めたスイスやアメリカのメーカーの扱いはまだ不明瞭だ。現在、シチズン時計の傘下には、ラ・ジュー・ペレとアーノルド&サンを擁するプロサーがあり、アメリカ市場で強いブローバも、やはり同グループの1社である。しかし現時点で、これらは十分な利益を生み出していない。クォーツを載せたブローバはシチズンとのシナジーを生むと予想されるが、機械式時計を作るプロサーは年間数億ほどの赤字を出している、と推測する者もある。
「プロサーは焦らずに、時間をかけて伸ばしていくつもりです」(竹内氏)

紅明 NZ0000-07W

カンパノラ誕生15周年記念モデル 紅明(べにあけ) NZ0000-07W
高価格帯への試みが本作。カンパノラ メカニカルコレクションの文字盤を、儀同哲夫氏による漆塗りに改めたモデルだ。漆塗りの文字盤は他社も採用するが、下地の完成だけで1カ月を費やす手間のかけ方は、この価格帯では珍しいだろう。外装に傾倒するシチズンらしい時計。基本スペックは右ページのメカニカルコレクションに同じ。75万円。
聚楽 NZ0000-07P

カンパノラ誕生15周年記念モデル 聚楽(じゅらく) NZ0000-07P
日本全国に13店舗あるシチズンのコンセプトショップ。そこでのみ取り扱われるのが、カンパノラ15周年記念モデルの「聚楽」である。ムーブメントはラ・ジュー・ペレ製のCal.Y513。そこに儀同哲夫氏が手掛ける、雅な漆塗りの文字盤が与えられた。基本スペックは右ページのメカニカルコレクションに同じ。限定50本。80万円。
シリーズエイト 806 CB1000-51E

シチズン シリーズエイト 806 CB1000-51E
シチズンの野心作が「シリーズエイト」だ。カンパノラやザ・シチズンの陰に隠れて目立たないが、その立体的なケースの造形は、同社の非凡な外装加工技術を最も反映したものである。世界26都市の時刻を表示するダイレクトフライトを搭載。エコ・ドライブ(Cal.H149)。SS(直径42.3mm)。10気圧防水。21万円。

 高価格帯の切り札になるであろう機械式ムーブメントに関しても、シチズンはあまり積極的ではなさそうだ。ミヨタの自動巻きキャリバー82は、安価で極めて優秀なエボーシュだが、ETAの代替にはなりえない。82の性能を改善した90も、製造をやめるという噂が絶えない。
「いや私たちは、今後もメカの製造はやめないし、広げる予定ですよ」(木原氏)

 改めていうが、シチズンのポテンシャルは、関係者が自覚している以上に高い。とりわけ、デザインと機能を巧みにまとめ上げる手腕は、スイスのメーカーが舌を巻くレベルにある。

 生産のスリム化とスピードアップを果たしたシチズン。現在は、今後の展開に向けて大きな調整中といったところか。続く海外進出と、外装の改善がどう進んでいくのかは、今後いっそう注視することにしたい。

シチズン独自の「デュラテクト」テクノロジー

シチズンの誇る硬化処理技術がデュラテクトである。といっても、現在はPVD処理、DLC加工、そしてガス硬化技術であるMRKの3種類(細かく分けると計9種類)に分かれる。その硬度は極めて高く、最新のデュラテクトα(PVD処理)の皮膜の硬さはHv2000~2500。最も低いものでもHv1000以上ある、とのこと。上の写真は、デュラテクトを施した素材と施していない素材の耐傷性・耐擦過性の比較である。処理を施したものにはまったく傷が付いていないことが分かる。デュラテクトの高い耐傷性は、シチズンの腕時計に際立って高い実用性を与えることとなった。


Contact info: シチズンお客様時計相談室 70120-78-4807

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