オークションレポート 『2019年春のジュネーブ・オークション総評』

時計特集

取材・文/ダビデ・ムナーリ

ref.2497

1953年製のパテック フィリップ ref.2497。ピンクゴールドケース。98万スイスフランで落札。

 実のところ、オークション会社が販売するトップウォッチを入手する際に直面する困難が増えていることを示す、比較的に、心が沸き立たないもうひとつのシーズンである。そんな時期にできることは、最近のカタログを10年または15年前のカタログと比較することだ。確かに買い手の嗜好とトレンドは変化したが、本当に珍しくて重要な時計の数はかなり減少している。

 重要性と品質(条件)の観点から、今シーズン、ジュネーブで販売されたふたつの最高のヴィンテージ腕時計は、サザビーズによって98万スイスフランで販売されたピンクゴールドのパテックフィリップ ref.2497と、フィリップスが98万スイスフランで販売したイエローゴールドのロレックスのref.8171である。

 1987年にジョージ・ダニエルズが製作したグランドコンプリケーションポケットウォッチは、フィリップスのカバーロットを飾り、2012年にオークションで最初に販売されたときよりも約70%高い242万スイスフランで販売された。このグランドコンプリケーションは、 2つのユニークな「スペーストラベラー」ポケットウォッチほどアイコニックではなく、シンプルなダニエルズポケットクロノメーターのエレガンスを欠いているものの、重要な個体であり、その重要性に相応な価格を得た。

 フィリップスが販売したもうひとつの注目すべき時計は、1940年にヴァシュロン コンスタンタンが製造した、ユニークな初期のイエローゴールドケースを持つクッション型ミニッツリピーターカレンダー腕時計である。オリジナルダイヤルのコンディションは悪かったが、本ロットにはオリジナルダイヤルのレプリカが含まれていた。フィリップスによる販売に対するマーケティング上の奇妙なギミックにもかかわらず、このヴァシュロンは最終的に74万スイスフランで販売された。1936年にエベラールのミラノで扱われた新品同様のロンジンのA7クロノグラフは、同オークションにおいて25万スイスフランで販売された。

ロレックス ref.8171

1950年生のロレックスref.8171。イエローゴールドケース。98万スイスフランで落札。

 現在、同じリファレンスのふたつの時計について議論する傾向があることを指摘したい。ひとつの例は、ロレックスの「スモールクラウン」サブマリーナのref.5508である。1950年代後半に製造された5508は、この春、ふたつの個体が、ジュネーブで2日以内に販売された。ミントでほぼ「新古品」の例は、フィリップスにおいて50万スイスフランで販売され、一方平凡な状態にある同じリファレンスの別の個体は、クリスティーズにおいて2万5000スイスフランで販売された。品質とはすなわち価格である!この場合、価格差は20倍にも達している。

 これは、今日のヴィンテージ腕時計の収集における、唯一の、そして最も重要な基礎となるパラダイムと言えるだろう。最も美しく、最高品質の個体は、価格が大幅に上昇したとしてもコレクター-より教育を受け、より熱心に時計を探す-が、最良のサンプルの大変に限られた出物を感知することにより、信じられないほどのプレミアムを伴い、取引され続けることになる。

 ディーラーによって「触れられた」、美しいピンクゴールドのロレックスのref.6062「Stelline」はクリスティーズのカタログの表紙を飾り、どうにか97万5000スイスフランの値を付けた。同じ時計は、4年前にアンティコルムにおいて、約3分の1の価格で販売された。その当時、ダイヤルの夜光はひどく状態に入れなおされていたが、以降、気鋭のディーラーによって巧みに「元の」状態に戻された。

ジョージ・ダニエルズ ref.8171

ジョージ・ダニエルズ作のグランドコンプリケーション懐中時計。1987年製。242万スイスフランで落札。

 一方、正直なコンディションにあるイエローゴールドのref.6062の「Stelline」はフィリップスにおいて54万8000スイスフランで販売された。古典的なパテックフィリップの2つの良好なref.96 カラトラバは言及する価値がある。ひとつはフィリップスにおいて13万7500USドルで販売されたプラチナブレスレット付きの個体。そしてもうひとつは、 クリスティーズにおいて9万7500USドルで販売された、セクターダイヤルを備えたスチール製のセンターセコンドモデルである。最近はより小さく、クラシックで、エレガントな腕時計に消費者たちの嗜好が戻ってきているようだ。一方手巻きデイトナの価格は、市場の疲れと消化不良に加えて、デイトナの供給が依然として大きいため、場合によっては下落している。そのため見積もりを下げないと、多くの個体が売却できなかった。

 サザビーズにおいて、フランスの小売店ギラミンが販売した2つの重要な時計は注目に値する。以前から知られていたイエローゴールドのパテック フィリップ ref.1518は50万USドルで販売され、オーデマ ピゲ製のムーブメントを備えたゴールドスクエアのカルティエ製トリプルカレンダーは20万6250USドルで販売された。また4つのゴングに4つのハンマーを備えた珍しいヴァシュロン コンスタンタンのミニッツリピーター懐中時計は同じオークションにおいて13万7500USドルで販売された。非常に珍しいスチールとピンクゴールドにブラックセクターダイヤルを備えたパテック フィリップのref.130は、1989年の伝説的なオークションであるアート・オブ・パテック フィリップから30年後、今ではうまく機能していないアンティコルムに戻り、28万1000USドルで販売された。

 要約すると、世界的な経済的状況が非常に不確定なままであるとしても、市場を支配する愛好家たちによる品質と希少性へのあくなき追求は、ヴィンテージ時計収集の最高層で不動のままであり、予見可能な将来において容易に変化することはないだろう。

ダビデ・ムナーリ
重要な腕及び懐中時計の世界的な愛好家にしてコレクター


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