もはや「ワールド」なフェアではなくなる!? セイコーが2020年バーゼルワールド出展中止!

時計特集

セイコーのブース

2019年のバーセルワールドに出展したセイコーのブース。「SEIKO」と「GS」のふたつのブースで構成される。場所はメインホールの2階。いわゆるホール1.1というエリアだ。
渋谷ヤスヒト:取材・文・写真 Text & Photographs by Yasuhito Shibuya

セイコーが2020年バーゼルワールド出展中止

 セイコーが2020年、「バーゼルワールド2020」への出展を中止する。一部では噂があったが、11月1日、セイコーウオッチの広報宣伝部は筆者の問い合わせに対して、この決定が事実であることを認めた。

 出展中止の理由は「2020年の(バーゼルワールドの)開催時期が例年より遅いため」というもの。確かに、例年より1カ月以上遅い、4月30日から5月5日という開催期間は、日本では大型連休に掛かる時期。特に日本の時計関係者にとってはうれしくない日程だ。

 代わりに従来のバーゼルワールドの会期を考慮して、新製品の発表を何らかのかたちで3月に行うというのだ。

 これは、時計ブランドとしてかなり大きな決断だ。バーゼルワールドへの出展中止で巨額の出展料は不要になるが、多額の費用をかけて製作し、保管してきたブースも用無しになる。

 この決定は「Baselworld2020+」と銘打ってさまざまな改革案を提示してきたバーゼルワールド事務局、そして親会社のMCHにとって大きな痛手だろう。「Baselworld」の「world」の文字がひどく色褪せることは間違いない。なぜならセイコーは、時計業界で世界トップ10の一角を占めるビッグブランド。この決定は世界に衝撃を与えるだろう。

クロージングカンファレンス

2019年3月26日の正午から、バーゼル・メッセのメインホール1.2(3階)で行われたクロージングカンファレンスにおいて、フェアの改革案「バーゼルワールド2020+」を発表するバーゼルワールドのマネージングディレクター、ミッシェル-ルイス・メリコフ氏。

 他の日本ブランドはどうするのか。それぞれビジネスの体制が異なるので、単純に追随するとは思えない。だが、出展中止を検討していたなら、セイコーの決断はその判断に大きく影響する事態だ。

 セイコーがかつてのバーゼル・フェアに初出展したのは今から30年以上も前の1986年。それまで出展社はスイスとヨーロッパに限られていたが、この年から世界の他のエリアからの出展を受け入れた。セイコーはその初年度から、バーゼル・フェアの舞台で「世界デビュー」を果たしたのだ。この年、セイコーはキネティック(自動巻き発電クォーツ)の原型となる、手巻き発電モデルの「インパクト」をバーゼル・フェアで発表している。その後も自動巻き発電の「キネティック」、主ゼンマイによる動力源と輪列を持つ機械式でクォーツ制御の「スプリングドライブ」や、GPSソーラー駆動クォーツの「セイコー アストロン」など、世界に先駆けた技術とそのプロトタイプや新製品を発表してきた。

(左)2000年のバーゼル・フェアでのセイコーのブース。当時は、メインホールの1階(ホール1.0)の最も奥に位置していた。
(右)この年は、海外ではキネティックのスポーツモデル「スポーチュラ」を発表した。

 劇的な改革がない限り、現在の状況ではセイコーがバーゼルワールドを世界に向けての新製品発表の場に再び選び、復帰することはないだろう。ただ、別の国際的なフェアに出展するかもしれない。その可能性はあると思う。

 セイコーの出展中止は、1995年からバーゼル・フェア(現バーゼルワールド)を見続けてきた筆者の目から見ても、致し方がないことのように感じる。ブースの場所、フェアのフロアプランから考えても、スイスブランドと比較すると、同等の扱いを受けてきたとは思えないからだ。

 セイコーのブースは1995年当時、最も奥だがメインホール1.0の1階フロアにあった。だが、バーゼル出身の建築ユニット「ヘルツォーク&ムーロン」による改装が行われた2013年以降はホール1.1、つまりメインホール2階フロアの奥になった。

 スペースは拡大されたが、フェアでのプレゼンスは明らかに低下した。このエリアには日本ブランドのブースが並んでいる。時計業界内のさまざまな事情があるだろうが、これが「ワールド」を名乗るフェアにとってふさわしいことなのか。旧態依然とした運営が垣間見えて、何とも釈然としない気分になったものだ。

 これは筆者の個人的な推測だが、出展中止は「開催時期」だけが理由ではないだろう。すでに撤退しているモバード グループやスウォッチ グループと同様に、運営方法や出展料など、理由はほかにもあるはずだ。

 今春、バーゼルワールド直後にこのコラムで筆者は「世界時計祭、業界のミーティングポイントとしてのバーセルワールドの価値は計り知れない。何とか継続してほしい」と書いた。だが、このままでは2021年の開催も危ぶまれる。存続できたとしても、1970年代以前のローカルなフェアに戻ってしまうだろう。運営体制も含めて、さらに厳しい見直しを迫られるだろう。

 例年の1月ではなく、バーゼルワールドと期間をつなげて2020年4月25日からの開催となったSIHH(通称ジュネーブサロン)は、2020年から名称をSalon International de la Haute Horlogerie(国際高級時計展)から「Watches & Wonders Geneva(“時計という素晴らしい驚き”展 ジュネーブ )」へと改名される。

「WATCHES & WONDERS GENEVA」のホームページ。「sihh」と検索するとこのページが現れる。

 この名称は、2013年、2014年、2015年に香港で開催されたジュネーブサロン香港版の名称を引き継いだものだ。公式ウェブサイトのトップには「時計のプロフェッショナルのためのマストイベント、そして広く一般の人々に向けて時計作りの素晴らしさを発信する震源地になる」という文字が掲げられている。

 マネージングディレクターとしてバーゼルワールドの改革に奔走するミッシェル-ルイス・メリコフ氏は、このコラムで2回にわたって紹介した2019年3月26日開催のバーゼルワールドのクロージングカンファレンスで、さまざまな改革プランをプレゼンテーションした。しかし、次回から名称を変えると発表したSIHHのこの迅速な“変身”のような、出展社を引き付けるアピールには成功していない。

 筆者は来年2020年も、2019年のようにクロージングカンファレンスがバーゼルワールドで開催されることを見越して、フェア最終日の5月5日まで取材することを決めたばかりだ。2020年のバーゼルワールドで、そしてカンファレンスで、果たしてフェアのどんな「未来」が見えるのか。その未来が明るいことを、今から祈らずにはいられない。


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