オーデマピゲ/ロイヤルオーク

アイコニックピースの肖像

広田雅将:取材・文 吉江正倫、三田村優:写真
[連載第2回/クロノス日本版 2011年1月号初出]

立体感のある薄型ケースに施された細密な仕上げ、そして名機の誉れ高いCal.2121の採用。SSケースとしては法外な価格と揶揄されながらも、
オーデマ ピゲは1972年に「ロイヤル オーク」を出航させた。それから約40年の歳月を経た現在、発表当時は異例のオーバーサイズを誇ったこのスポーツウォッチは
さまざまなバリエーションを派生させながら、連綿と受け継がれるロングセラーとして、オーデマ ピゲのアイコン役を担い続けている。ファーストモデルと、その意匠と機械を受け継ぐ復刻モデルを比較し、また搭載するCal.2121の設計と機能性を検証することによって、ロイヤル オークが担った歴史的役割と今後の方向性を考えてみたい。加えて、不世出の傑作時計をデザインした、ジェラルド・ジェンタの功績も改めて評価してみよう。

OLD PIECE
この時計の出現によって以降の時計史は大きく刷新された

Ref.5402ST

ロイヤル オーク
70年代半ばごろに製造された、ファーストモデル。Ref.5402ST。厳密にはセカンドロットの「Aシリーズ」にあたる。なお製造番号にアルファベットがないファーストロットは、1000本製造された。針とリュウズはリプレイス品。針はオリジナルに同じだが、オリジナルのリュウズにはAPのロゴがない。自動巻き(Cal.2121)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径39mm)。50m防水。当時の定価3650スイスフラン(2200USドル)。個人蔵。

 1972年発表の初代「ロイヤル オーク」(Ref.5402ST)は、真にエポックメイキングな存在だった。薄型ならではの優れた装着感に、「らしからぬ」立体感。そして、時計デザインの定石を覆すかのように立たせたエッジ。その独創的な意匠は、初めて時計全体のデザインを手がけた、ジェラルド・ジェンタの意気込みを感じさせるに十分なものだった。

 しかしこの革新的な時計は、関係者の期待ほどには売れなかったらしい。当時の人々にとって、直径39㎜というサイズは、法外に大きかったのである。オーデマ ピゲ博物館で館長を務めるマーティン・ウェリー氏はこう語った。「ロイヤル オークはイタリア市場の要請で誕生しました。しかしドイツ以外では、あまり売れませんでしたね」。

 高価だった点も、市場の不評を買った。SSケースにもかかわらず、当時の定価は3650スイスフラン(2200USドル)。水準をはるかに超えた外装とムーブメントを持つと考えても、その価格は常識外れだった。

 しかし、ロイヤル オークの意匠と、この時計が取り組んだラグジュアリー・スポーツというジャンルは、やがて市場に大きな影響を与えることになる。主なフォロワーには、以下のものがある。ボーム&メルシエ「リビエラ」(1973年)、ジラール・ペルゴ「ロレアート」(75年)、パテック フィリップ「ノーチラス」(76年)、ヴァシュロン・コンスタンタン「222」(77年)。また手間をかけることでステンレスも価値を持つと知らしめた点、現行のステンレスウォッチは、例外なくロイヤル オークの影響下にあると言えよう。

 卓越した造形をもって、時計業界に新しいジャンルを切り開いた初代ロイヤル オーク。時計史において、この時計に比肩する存在を探すとするなら、唯一パテック フィリップの「カラトラバ」96のみだろう。

Ref.5402STのディテール。(左上)現行品に比べて、若干細い針とインデックス。針はメーカーのリプレイス品だが、太さはオリジナルに同じ。針、インデックス、ベゼルを留めるビス共に18KWG製。(右上)手彫りのギョーシェが施された「タペストリー」文字盤。黒い塗料が剥落して下地が露出している。金色が示すとおりダイアルは18KYG製。(中)ケースサイド。水平ではなく、ブレスレット方向に向かって弓状に反っている。これがRef.5402STの大きな特徴。(左下)2ピースのケースバック。セカンドロットの548番目に製造された個体であることが分かる。(中下)時代を感じさせるプレーンなバックル。バックルはゲイ・フレアー製だが、社名が刻印されたものと、ないものが存在する。(右下)時代を感じさせるブレスレット。加工精度はかなり良いが、中ゴマの上下には面取りが施されていない。