セイコー/グランドセイコー

アイコニックピースの肖像

エル・プリメロ
広田雅将、鈴木裕之:取材・文 吉江正倫:写真
[連載第9回/クロノス日本版 2012年5月号初出]

未だ成し遂げられていなかったクロノグラフの自動巻き化を巡って、各社がしのぎを削っていた1960年代末。そして迎えた“運命の1969年”にゼニスが発表した“世界初の1機”が「エル・プリメロ」であった。ムーブメントに付けられた愛称が、そのままアイコンとなった例は他に類を見ない。生産中止から再生産を経て、現在もなおゼニスの基幹キャリバーとして君臨するエル・プリメロの足跡を追う。

El Primero CHRONOGRAPH A384 1969年製ファーストシリーズの1本

エル・プリメロ クロノグラフ A384

エル・プリメロ クロノグラフ A384
1969年秋に発売されたファーストモデルのひとつ。製造数は2400本。ゼニスのミュージアムにもない、非常に貴重な個体である。なおムーブメント名の3019PHCとは、直径30mm(30)、クロノグラフ(9はクロノグラフの識別番号)、P(Power=自動巻き)、H(Hour=12時間積算計)、C(C=カレンダー)を意味する。自動巻き(Cal.3019PHC)。31石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径37mm)。個人蔵。

 1969年1月10日に発表されたエル・プリメロことキャリバー3019PHC。しかし発売は大きくずれ込み、製品としてリリースされたのは同年秋のことであった。この年の5月、セイコーはキャリバー6139を搭載したスピードタイマーを発売。残念ながらゼニスは、世界で初めて発売された自動巻きクロノグラフという栄誉を手にすることはできなかった。

 しかしエル・プリメロは、同時期に発表された他の自動巻きクロノグラフに比べ、はるかに充実した内容を持っていた。3万6000振動/時という振動数は、エル・プリメロに10分の1秒計測と、クロノメーター級の高精度をもたらした。また約50時間というパワーリザーブにより、優れた等時性も備えていた。クロノグラフ機構はいっそう優秀だった。設計こそオーソドックスであったが、各部の設計は堅牢であり、調整可能な箇所も手巻きの高級クロノグラフ以上に多かった。低価格を狙ったセイコーの6139、生産性を考慮したホイヤー/ブライトリングの11と異なり、エル・プリメロは、純然たる高級機として設計されたのである。

 高級機としてのエル・プリメロ。そう考えると、初代モデルの内訳も理解できる。69年秋に発売されたエル・プリメロは、SSケースのA384、18KYG/WGケースのG383、18KYGケースのG381。同年すぐに6モデルが追加されたが、しかしその大半はゴールドケースだったのである。

 写真の時計は、69年に発売されたA384のファーストモデルである。このモデルは71年まで製造されたが、これはおそらく正真正銘の第一作だ。この時計、搭載するムーブメントもさることながら、装着感を含めて、時計としての完成度が非常に高い。ゼニスはそのムーブメントに相応しい完成度を、初号機にも与えたのである。

エル・プリメロ クロノグラフ A384
(左上)視認性に優れた文字盤。赤いクロノグラフ秒針には、夜光塗料があしらわれる。おそらく高振動を強調するために、極初期のエル・プリメロはこの形状の針を備えていた。文字盤は完全なオリジナルだが、おそらくスモールセコンド針と30分積算針は後年のもの。オリジナルのA384では、この2本も12時間積算針並みに細い。なおインダイアルの針が長すぎるように見えるが、可能な限り針とインデックスを重ねるのがゼニスの伝統だ。
(右上)エル・プリメロのロゴが入った文字盤。このシンプルなロゴは1986年まで使用された。
(中)ケースサイド。風防の取り付け位置は、針よりも低い。厚みのある自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載することで生ずる、ケースの厚みを感じさせないための配慮だろう。素晴らしく原型を保っているが、オーバーホール時に交換されたリュウズは翌70年から用いられたデザイン。これは2000年まで使用された。
(左下)バックケース。1967年から69年までのモデルには、リュウズや裏蓋に星状のマークが刻まれている。星に見えるが、本来はふたつのZを重ねたもの。
(右下)ゲイ・フレアー製のブレスレットとバックル。当時の典型的な“巻きブレス”である。剛性感はないが、これがA384の標準仕様であった。

El Primero New Vintage 1969 Original 誕生40周年に復刻された限定モデル

エル・プリメロ ニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル

エル・プリメロ ニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル
2009年発表の限定モデル。エル・プリメロ40周年を記念して、18KRG/250本、SS/500本、Ti(ブラックPVD)/250本が製作された。“原点回帰”という流れを作った1本である。ケースや文字盤の質感も高いが、現行品はさらに良好。Cal.400Z以降のムーブメントは信頼性も大きく高まった。自動巻き(Cal.469)。31石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径40mm)。5気圧防水。参考商品。

 ジャン-フレデリック・デュフール氏が前CEOに就任して以降、原点回帰を目指すゼニス。そんな同社の転換点となったのが、2009年発表の「ニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル」だろう。企画はティエリー・ナタフ氏の時代だが、このモデルの成功が後のゼニスを変えたことは想像に難くない。先達が残した良き遺産のひとつであろう。このモデル、ケース形状はA384を踏まえているが、直径を40㎜に拡大。またダイアルのデザインはA384ではなく、同じく1969年に発売されたA386に範を取っている。インダイアル(とりわけ12時間積算計)が拡大され、文字盤の外周にも斜めに成形されたリングが設けられた。風防の盛り上がりはA384より控えめだが、このリングのおかげで、見返しは決して過剰に見えない。厳密な意味での復刻版ではないが、オリジナルのエッセンスを見事に抽出した記念モデルと言える。

 加えて外装の作りもかなり良質だ。立体的な風防はプレキシガラスからサファイアガラスに置き換わり、サテンとポリッシュを併用したケースは表面も平滑となった。ダイアルの印字も、旧来よりはるかに改善された印象を持つ。ナタフ時代の同社は、針のペイントに赤を多用したが、いずれも面に歪みがあった。しかし09年のこのモデルは例外的に良質だ。もちろん最新型のムーブメントを搭載するため、信頼性も大きく高まっている。

 かつての意匠に、優れた質感と、高い完成度を盛り込んだニュー・ヴィンテージ 1969 オリジナル。残念ながらこれは限定版だが、その点を嘆く必要はなさそうだ。というのも現在のエル・プリメロ搭載機は、これよりいっそう高い質感を持っているうえ、価格も控えめなのである。トータルバランスから考えても、現在のエル・プリメロは本当に買うべき時計となったのである。

(左上)A386に範を取った文字盤。斜めに切ったリングを外周に配し、見返しの幅を抑えている。重なり合うインダイアルは現行品も同じだが、視認性の観点から言うと、このモデルの方が勝っている。30分積算計を12時間積算計の上に重ねることで、それぞれの積算表示がはっきり読み取れる。筆者は現行のゼニスを大変好むが、この点だけはニュー・ヴィンテージの仕様に戻して欲しい。
(右上)緻密なダイアル。オリジナルはほとんどマット仕上げだが、このモデルでは若干ツヤが加わった。印字は立体的ではないが、エッジに歪みはなくクリアな印象だ。
(中)ケースサイド。造形はオリジナルのA384にほぼ同じだが、ケース径は3mm拡大されている。プッシュボタンが大きくなり、併せてミドルケースもやや厚くなった。風防はプレキシガラスからサファイアガラスに変更されている。
(左下)ファーストを忠実に模した裏ブタ。しかし90年代以降のゼニスはトランスパレントバックが標準となっている。現在は改善されているが、このモデルではまだ刻印が細く、彫りも浅めだ。ムーブメントナンバーの「469」は、発表年にちなんだ復刻版専用のものだが、内容はZスペックのCal.400と同一。
(右下)斜めに切り立った文字盤外周のリング。高品質な印字は写真が示す通り。

エル・プリメロ、開発と改良の足跡古典的クロノグラフの完成形へ

1969年に発表されたエル・プリメロは、最初期に発売された自動巻きクロノグラフのひとつとして記憶されている。しかしこのムーブメントの素晴らしさは、巻き上げ機構よりも、非凡なクロノグラフ機構にある。エル・プリメロとは、自動巻きクロノグラフの先駆けという以上に、古典的なクロノグラフの完成形なのである。

Cal.3019PHC

Cal.3019PHC
1969年初出。古典的なクロノグラフ機構に、コンパクトなリバーサーを押し込むことでクロノグラフの自動巻き化を果たした。これは31石仕様だが、石数で関税の変わるアメリカ市場向けには17石仕様が供給された。自動巻き。31石(17石)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。直径29.33mm、厚さ6.5mm。

 1969年1月10日に発表されたキャリバー3019PHC。多くの人々は、それをゼニスとモバードの共同開発であったと考えている。時計史家のフリッツ・フォン・オスターハウゼンも、大著『モバード』にこう記している。「長い期間を経て育まれた複雑時計に対するモバードの経験は、同社をエル・プリメロの理想的な共同開発者にした」。しかし筆者の見る限り、エル・プリメロの基本設計は、ほぼゼニスによるものだったと言って間違いない。


 確かにモバードは、複雑時計の製造に豊かな経験を持っていた。しかしその複雑機構は例外なくモジュール構造を前提としていた。39年発表のクロノグラフ、キャリバーM90は、手巻きにクロノグラフモジュールを載せたものであり、45年の「カレンドマティック」が搭載したキャリバー225も、やはりカレンダーモジュールを文字盤側に重ねたものだった。その設計思想は時代をはるかに先取りしていたが、モジュール化を得手としたゆえに、同社は薄型自動巻きというトレンドに乗り遅れた。結果、モバードの創業一族であるディティシャイム家は、モバードをゼニスに売却することになる。69年のことだ。


 エル・プリメロが成功を収めた原因は、頑強なクロノグラフ機構と、コンパクトな自動巻きの組み合わせにあった。そもそものアイデアは、クロノグラフメーカーのレ・ポン・ド・マルテルにあっただろう。ユニバーサルの傘下企業として、優れたクロノグラフムーブメントを製造していたマルテル。60年に同社はゼニスに売却され、以降ゼニスのクロノグラフは急速に〝マルテル化〟されている。

Cal.146

ゼニス Cal.146
1934年初出。マルテル時代の名称はCal.749。後にユニバーサルCal.285となったクロノグラフである。マルテルらしい強固なリセットハンマーとクロノグラフ中間車レバーに注目。またクロノグラフ機構に関わるほとんどの部分(例えば積算計の噛み合いの深さ)などが調整可能である。こうしたCal.146の特徴は、エル・プリメロにも受け継がれた。
レマニア Cal.1040系

レマニア Cal.1040系
1972年初出。エル・プリメロの影響を受けた自動巻きクロノグラフ。コンパクトなリバーサーを丸穴車に噛ませる設計は、エル・プリメロに同じだ。75年に製造中止。なお99年から再生産されている後継機のCal.1350は、リバーサーに代えて耐久性に優れたマジックレバーを採用。
Cal.2522P系

ゼニスCal.2522P系
エル・プリメロの特徴であるコンパクトなリバーサー。そのルーツは1954年初出のCal.2522P系に求められる。ベースは手巻きのCal.2522系。2番車と4番車をセンターに重ねた通常輪列の外側に、コンパクトなリバーサーを配置することで自動巻き化を果たしている。
Cal.7750

バルジュー Cal.7750
1973年初出。やはりエル・プリメロの影響を受けたであろう自動巻きクロノグラフのひとつ。コンパクトな片方向巻き上げを採用して自動巻き化を果たした。ただし初期の自動巻きクロノグラフが例外なくそうであったように、コンパクトな巻き上げ機構は耐久性が低かったとされる

 ではいつ、エル・プリメロの設計が始まったのか。62年に旧マルテルの技術者は、独自に自動巻きクロノグラフのスペックシートを完成させている。しかし、ゼニスが新型自動巻きクロノグラフの設計を下命したのは65年のことだったとジャーナリストのギスベルト・L・ブルーナーは記している。どちらにせよ、エル・プリメロの設計に際し、マルテルがベースとなったことは間違いない。


 当時クロノグラフのエボーシュとして普及していたのは、バルジューとヴィーナスである。年々クロノグラフ機構を洗練させた彼らに対し、マルテルはむしろ耐久性を重視するようになった。バルジュー72とゼニス146(旧マルテル749、ユニバーサル285)を比較すると、後者のレバー類は大きく太く、クロノグラフの調整箇所も多いことが分かる。さるコレクターが「エル・プリメロのクロノグラフは、ゼニス146を転用したもの」と喝破した通り、エル・プリメロの基礎設計は、見事なまでにマルテルであった。

エル・プリメロ クロノグラフ A386

エル・プリメロ クロノグラフ A386
1969年に発売された最初期型エル・プリメロのひとつ。18KYGモデル「G381」のケース素材をSSに改めたもの。加えて12時間積算計を拡大し、それぞれのインダイアルには異なる色があしらわれた。基本デザインは、現行の36’000VPHに引き継がれている。製造本数は2500本。自動巻き(Cal.3019PHC)。SS(直径38mm)。ゼニス所蔵。

 しかしマルテルのクロノグラフは、お世辞にもコンパクトとは言えなかった。これに自動巻きを組み合わせるには、よほどコンパクトな巻き上げ機構が必要となるはずだ。しかし幸いなことに、当時のゼニスは優れて省スペースな自動巻きムーブメントを持っていた。60年初出のキャリバー2522Pは、手巻きの2522にコンパクトなリバーサーを〝埋め込んだ〟自動巻きムーブメントであった。その巻き上げ機構は現代の基準で見ても素晴らしく簡潔で、ローターと丸穴車の間には、1枚の中間車と2枚のリバーサーしかない。エル・プリメロのリバーサーは2522Pに酷似しており、コンパクトな巻き上げ機構を丸穴車に直接つなぐ発想も2522Pに同じだ。ただし2枚のリバーサーを載せるスペースすらなかったのか、エル・プリメロはリバーサーを1枚しか持たない。

 エル・プリメロとは、マルテルの流れを汲むキャリバー146に、キャリバー2522Pの巻き上げ機構を合体させたもの。設計を見る限り、そう断言して間違いない。ではモバードは、何をもって共同開発者として名を連ねたのか? 当時の彼らはモジュール型のクロノグラフと、強固で大きな巻き上げ機構を持っていたが、それはエル・プリメロに求められたものとは正反対だった。唯一モバードの貢献が考えられるのは高振動化だ。

 ゼニスもモバードも、当時の天文台コンクールでは常に優れた成績を残していた。しかし高振動化に対して無頓着だったゼニスに対し、モバードはかなり意欲的だった。彼らは天文台用に、プゾー260を2万1600振動/時に改良し、64年のキャリバー270では3万6000振動/時を実現した。実現の鍵となったのは、ファー社(現ニヴァロックス・ファー)の新型脱進機「クリナージック21」である。66年にこの高振動脱進機はついに量産化され、スイス時計は一挙に高振動化の可能性を得るが、筆者の知る限り、極初期からクリナージック21を採用していたのはモバードだけであった。おそらく同社は高振動化のノウハウを、新しい自動巻きクロノグラフに提供したのだろう。


 マルテルのクロノグラフに、ゼニスの自動巻き、おそらくはモバードの高振動化技術が組み合わされたキャリバー3019PHC。69年1月10日の発表を聞いた関係者は、驚きを隠し切れなかっただろう。何しろこのムーブメントは、従来のクロノグラフ機構を犠牲にせず自動巻き化を果たしたうえ、3万6000振動/時という超高振動を誇っていたのだから。しかも直径は29・33㎜、厚さは6.5㎜に過ぎず、パワーリザーブも約50時間と長かった。発売こそセイコーの6139に後れをとったが、エル・プリメロは同年に発表されたあらゆる自動巻きクロノグラフより、はるかに高い完成度を誇ったのである。

デイトディスクを外した文字盤側。エル・プリメロの知られざる美点に、12時間積算計の素晴らしい設計がある。香箱から直接動力を得るETA7750やレマニア1871と異なり、動力をオンオフするクラッチを持つ。加えてCal.146に比べても、積算計の保持が頑強になった。

ローターとローター受けを外した状態。規制バネの多くは線バネになったが、全体的なクロノグラフ機構はCal.146に酷似する。左上に見える銀色の歯車が、主ゼンマイの巻き上げを司るリバーサー。クロノグラフ輪列の妨げにならないよう、空きスペースに配置されている。


 しかし3万6000振動/時という超高振動は、初期のエル・プリメロに問題を引き起こした。巻き上げ機構の摩耗である。超高振動化を実現するため、エル・プリメロの主ゼンマイは、1550g・㎝という極めて強いトルクが与えられた。これはETA2892A2の2倍近く、腕時計では最大級である。加えてエル・プリメロのテンワは7.1㎎・㎠という大きな慣性モーメントを持っていた。強いゼンマイを巻き上げるには重いローターが必要であり、両者をつなぐ自動巻きも強固であるべきだった。しかし小型化されたエル・プリメロの巻き上げ機構に、頑強さは期待できなかった。


 54年初出のキャリバー2522Pは、69年当時、より高振動化した2572Pに進化していた。強い主ゼンマイに対応するため、このムーブメントのリバーサーは、クラッチに強固な〝爪〟を採用。しかしエル・プリメロのリバーサークラッチは、2522Pと同じく板バネ式だった。ゼニスはなぜ、リバーサーをアップデートしなかったのか?

巻き上げ機構と通常輪列の配置。9時位置に見えるのが丸穴車。上側にあるのがリバーサーからの動力を丸穴車に伝える中間車、下側が香箱である。自動巻きと丸穴車を連結する機構は、50年代の自動巻きに多く見られたものだ。しかしゼニスは、この仕組みを極度に洗練させた。

 理由はおそらく負荷だろう。軽い板バネを使えば、巻き上げ機構の負荷を小さくできる。負荷が下がれば、巻き上げ効率は改善される。苦肉の策として、巻き上げ機構に関してのみ、ゼニスは耐久性よりも巻き上げ効率を重視したのではないか? 余談になるが、後年にロレックスがエル・プリメロをデイトナに採用した際、同社はベースムーブメントにさまざまな変更を加えたが、もっとも大きな違いは巻き上げ機構にあった。エル・プリメロの簡潔なリバーサーは、ロレックスの好みに合わなかったのだろう。同社はリバーサーをロレックス流の頑強なものに改めただけでなく、2万8800振動/時にまで振動数を落として、巻き上げ機構への負担を軽くしている。

 巻き上げ機構に弱点を抱えていたものの、エル・プリメロは群を抜いて優れたクロノグラフであった。仮に自動巻きでなくとも、エル・プリメロは成功を収めたに違いない。しかしこの優れたムーブメントも、クォーツの普及とスイスフランの高騰が引き起こしたゼニスの退潮を押し留めることはできなかった。72年にアメリカのゼニスラジオ社がMZMグループ(Mondia-Zenith-Movado)を買収。75年にはエル・プリメロも製造中止となってしまった。資料によると69年から86年までに出荷された旧エル・プリメロは、合計3万9920本に過ぎない。

高い減速比と、軽い動作を実現したエル・プリメロのリバーサー。不動作角が小さく、巻き上げ効率に優れているが、耐久性は決して高くない。なお現在も、このリバーサーはオーバーホールごとに交換必須の「交換指定部品」とされている。

強固な設計と、調整箇所の多さを誇ったマルテルのクロノグラフ。その設計思想はエル・プリメロも同じである。ムーブメントに見える青ネジは、調整可能な箇所。(左)リセットハンマー。中心のネジをまわすことで、ハンマーが広がり、秒ハートカムと、分ハートカムとの当たり幅を調整できる。(中)リセットハンマーと同軸に置かれたリセットハンマーの規制バネ。重いハンマーを支えるため、バネには凹凸状のガイドが設けられる。(右)コラムホイールを引いて回す方式の作動ツメ。偏心ネジでコラムホイールとの噛み合いの深さが調整可能だ。

 しかしエル・プリメロは不死鳥のごとく蘇った。エベルに相応しい自動巻きを探していたCEOのピエール・アラン・ブルムは、ゼニスにエル・プリメロの在庫を照会。時計師のシャルル・ベルモは、屋根裏に隠したエル・プリメロの部品をブルムに提供した。81年のことである。ただしこの時点でもなおエル・プリメロは廃版のままだった。エベルに提供されたエル・プリメロは、あくまでも社内在庫(フルカレンダーの3019PHF)をかき集めたものでしかなかったのである。


 84年に、ゼニスはエル・プリメロの再生産に着手。86年にはキャリバー400という名称を与えられた。ゼニスの資料によると、新しいエル・プリメロは3029PHCとなる予定であった。後に40.0に変更され、最終的には400に落ち着いた。3019PHCとの大きな違いは、耐震装置とコラムホイール上の〝キャップ〟である。耐震装置がインカブロックからキフに改められたほか、遊動レバーと分クロノグラフ中間車レバーの挙動を安定させるため、コラムホイールにはS字状のキャップが被せられた。


 大きな改良を受けるのは98年である。4番車、ガンギ車、アンクル爪の形状が変更され、キャリバー400系は「400Z」に進化。ガンギとアンクルの噛み合いを改善するため、4番車の歯数は100から120歯に増え、対してガンギ歯は21歯から20歯に減らされた。69年初出のエル・プリメロは、ようやく400Zで完成に至ったのである。


 現在もなお、圧倒的な性能を誇るエル・プリメロ。仮にこれほどの高機能でなかったとしても、その設計は古典的なクロノグラフの完成形と言ってよい。しかし、もちろん弱点はある。強固なクロノグラフに比べると、巻き上げ機構は今もって脆弱であり、定期的なメンテナンスが絶対に欠かせない。確かに最新のクロノグラフに比べると、維持の手間はかかる。しかし丁寧に整備されたエル・プリメロは、古典的なクロノグラフの楽しさを存分に味わわせてくれる。今なおこの傑作が製造されていることを、素直に言祝ぎたい。

エル・プリメロの自動巻き化を実現した鍵が、コンパクトなリバーサーである。これは1969年3月26日に書かれたリバーサーの設計図。1月10日の発表後も、設計が続いていたことが分かる。棒状の部品がリバーサーの動きを規制する板バネ。

バリエーションを増やすエル・プリメロ派生機

1969年に開発されたエル・プリメロは、大躍進が期待されながらも70年代の“冬の時代”に翻弄されて、決して幸福ではなかった前半生を過ごす。何度も資本が移り変わるなかで、ようやく再生産への目処が立った時、ゼニスが擁していた機械式ムーブメントはエル・プリメロだけだった。ほとんど唯一の基幹キャリバーとなったエル・プリメロは、必然的にそのバリエーションを増やしていった。

(左)Cal.4047[“OPen El Primero”+Sun & Moon Disc]
オープン仕様のCal.4021をベースに、ビッグデイトカレンダーと、デイ&ナイト表示を受け持つサン&ムーンディスクを追加。パワーリザーブ表示はオミットされ、追加部分はモジュール構造となる。直径30mm。41石。パワーリザーブ約50時間。部品数332点。
(右)Cal.4021[“OPen El Primero”+Power Reserve Indicator]
クロノマスター オープンに搭載される、いわゆる“オープン・エル・プリメロ”。専用設計された地板は、脱進機周りがスケルトナイズされ、文字盤側からテンワの動きを見ることができる。パワーリザーブ表示付き。直径30mm。39石。パワーリザーブ約50時間。部品数248点。

(左)Cal.405B[Flyback ChronograPh]
2011年に再生産されたフライバック仕様のクロノグラフで、Cal.405の現行バージョン。Cal.400と同様のモディファイが施された他は、旧作と同スペック。なお末尾のBは、大径化されたカレンダーディスクを示す。直径30mm。31石。パワーリザーブ約50時間。部品数331点。
(右)Cal.400B[ChronograPh]
Cal.3019PHCの基本設計を受け継ぐ現行ムーブメント。Z仕様で盛り込まれた改修点の他、巻き芯のストッパーやリセットハンマー(規制バネも含む)の形状など、細かなモディファイが多数盛り込まれている。直径30mm。31石。パワーリザーブ約50時間。部品数326点。

 世界初の自動巻きクロノグラフの1機として、1969年に生を受けたエル・プリメロは、現在に至るまでゼニスの基幹キャリバーとして君臨し続けている。さらに言えば、3針自動巻きのエリートとともに、わずか2機種を雛形として、全ラインナップを支えているのだ。これは極めて特殊な事例であろう。基幹キャリバーとして派生機を増やし続けるエル・プリメロ。そのバックグラウンドを知るにはまず、エル・プリメロ誕生から再生の時期にあたる、ゼニスの社史を知ることが必要となる。


 創業者ジョルジュ・ファーブル=ジャコが経営を退いた1911年に、ゼニスは最初の社名変更を行い「ファブリック・ド・モントル・ゼニスSA」となった。マルテル・ウォッチ・カンパニーやモバードを吸収しながら、エル・プリメロ発表の日を迎えるのはすでに述べた通りだ。この際の名義はMZMグループだったが、これらは72年に、アメリカ資本のラジオメーカー(奇しくもゼニス社と言うが完全に無関係。ゼニスラジオは1918年にシカゴで創業した家電メーカー)に買収。新たに「ゼニス・タイムSA」となるが、親会社はクォーツウォッチにしか興味を示さず、75年には機械式ムーブメントの生産中止を指示。一説には全ての生産備品が破棄されたとされている。その後78年に、投資グループのディキシーに再買収されスイス資本に復帰(社名はゼニス-モバード ル・ロックルSA)。83年にアメリカ資本のノース・アメリカン・ウォッチがモバードを吸収したことで「ゼニス・スイス・ウォッチ・マニュファクチュール」として再び独立ブランドとなった。翌84年から再生産に着手し、87年に「キャリバー400」としてリローンチされるエル・プリメロだが、この時点でゼニスが生産可能な機械式ムーブメントは、実にこれ1機種しかなかったのだ。

Cal.4035D[ChronograPh+Tourbillon]
エル・プリメロの通常輪列と地板をそっくりコンバートしたトゥールビヨン・クロノグラフ。トゥールビヨンらしからぬ超ハイビート機である。なおエル・プリメロベースのムーブメントはすべて3万6000振動/時。直径37mm。35石。パワーリザーブ約50時間。部品数325点。

 独立ブランドに返り咲いたゼニスの命運を一身に背負った新生エル・プリメロ。その最初の派生機は、92年に発表されたキャリバー420、通称プライムと呼ばれたモデルだった。これはエル・プリメロから巻き上げ機構を取り除いた手巻き仕様で、02年までに1万6100個が生産された。94年には、旧3019PHFと同じフルカレンダー仕様のキャリバー410が追加(03年まで生産。3万5800個)。そして97年に「レインボー・フライバック」に搭載されて一時代を築く、フライバック仕様のキャリバー405が登場する(02年まで。生産数1万850個)。キャリバー400を合わせたこの4機種が、第2世代のエル・プリメロと言える。

 なお98年以降、これら第2世代エル・プリメロは、前項で述べたような基本設計の見直しを受けて、キャリバー400Zへと進化するが、実際に「400Z」というムーブメントナンバーが存在する訳ではないので、少し補足しておこう。まず、98年以前に生産された400系であっても、一度でも正規のオーバーホールを受けた個体は、間違いなく400Z仕様となっている。これは歯数自体の異なるガンギ車が「交換指定部品」となっている関係で、4番車とアンクル(クワガタの形状が異なる)もパッケージでZ仕様に交換されるためだ。なおZ仕様への移行期には、現場の混乱を避けるために「400Z」と刻印された交換用の受けがあったが、市場に出回った大多数がZ仕様への刷新を終えた現在では、このパーツも見られなくなった。

(左)Cal.4057B[Striking 10th Flyback ChronograPh]
2011年に発表された、エル・プリメロ派生クロノグラフの最新バリエーション。基本的にはCal.4052Bと同一の高速運針モデルだが、フライバック機構(リスターティング機構)が追加されている。直径30mm。31石。パワーリザーブ約50時間。部品数326点。
(右)Cal.4052B[Striking 10th ChronograPh]
脱進機パーツに軽量なシリコン素材を用いることで、1周10秒というクロノグラフ秒針の高速運針化を実現。目盛りの間隔を広くとることで、エル・プリメロの特性である1/10秒計測の判読性を大きく向上させた。直径30mm。31石。パワーリザーブ約50時間。部品数326点。

 交換指定部品に関連して、注油の件にも触れておこう。高振動のエル・プリメロでは、ツメ石に飛散防止のモリブデンを混ぜた油を使うという話をよく聞くが、これは決して正規の手法ではない。ガンギ車が交換指定部品とされているのは、特殊なコーティングが施されているためで、3019PHCから現行機まで全ての整備マニュアルを確認したが、ここには注油指定自体がされていなかったのである。繰り返しになるが、エル・プリメロというムーブメントは、他のクロノグラフと比べても、オーバーホールには特に気を遣うべきだろう。こうした理由からも、定期的な正規オーバーホールを強く推奨したい。

Cal.4026

Cal.4026[SPlit Second ChronograPh]
エル・プリメロをベースとしたスプリットセコンド仕様。スプリット機構を納める受けが厚いため、一見モジュール構造に見えるが、通常輪列から上をすべて新規設計したインテグレート構造のムーブメント。直径30mm。32石。パワーリザーブ約50時間。部品数370点。

 第2世代のエル・プリメロと同時期に開発されたエリートについても軽く述べておく。94年に発表されたこの3針自動巻きについて、エル・プリメロから積算輪列をオミットした派生機との説明がされることがあるが、これも事実誤認だ。エリートはコンセンユレイで開発された新規設計のムーブメントであり、基本構成は旧2522P系に近い。


 99年以降、ゼニスはLVMHグループの傘下となり、正式な社名も「ゼニス・インターナショナルSA」に変更(現ゼニス・ブランチ・オブ・LVMH・スイス・マニュファクチュールSA)。01年にティエリー・ナタフがCEOに就任して以降は、ブランドイメージをハイラグジュアリーな方向へとシフトさせている。この時代を象徴するのは〝オープン・エル・プリメロ〟と呼ばれたキャリバー4021などだろう。文字盤側からテンワの動きを可視化させたモデルだが、単なるスケルトナイズ仕様ではなく、地板まで新規設計されていた。グランド・コンプリケーションもエル・プリメロベースで製作され、一気に派生機の数を増やしている。これらの多くがモジュール構造ではなく、専用設計のインテグレート構造だったことも特筆すべき点だ。

 現在のゼニスは、ムーブメント開発にもより堅実なスタンスをとっている。ジャン-フレデリック・デュフール時代の幕開けを飾ったのは、脱進機部品の軽量化で高速運針を実現させたキャリバー4052B。計測性能というクロノグラフの基本に立ち返った新しい派生機は、原点回帰の方向性をテクニカルな面から示した実例だろう。

完成度の飛躍を見せる現行エル・プリメロ9選

誕生40周年に発表された「ニュー・ヴィンテージ1969」以降、積極的に古典との融合が試みられているエル・プリメロ。“ネオ・レトロ”と表現されるその手法の本質は、積み重ねられたディテール全体の調和と解釈できる。飛躍的に完成度を高めつつあるエル・プリメロ・ファミリーの、現在形を俯瞰する。

エル・プリメロ クロノマスター グランドデイト ムーン&サンフェイズ

エル・プリメロ クロノマスター グランドデイト ムーン&サンフェイズ
2時位置のビッグデイト表示と、24時間で1回転するムーン表示(デイ&ナイトに相当)を備えたクロノマスターのバリエーションモデル。2012年以降はブラックダイアルも追加されている。自動巻き(Cal.4047)。SS(直径45mm)。5気圧防水。130万円。
エル・プリメロ クロノマスター パワーリザーブ

エル・プリメロ クロノマスター パワーリザーブ
2003年の初出以来、ゼニスの顔を担ってきた“オープン・エル・プリメロ”の現行モデル。サンレイギョーシェの文字盤や、針のペイントなど、品質は格段に向上している。自動巻き(Cal.4021)。18KRG(直径42mm)。10気圧防水。220万円

 最後の原稿に着手しようとした時、バーゼルワールド(2012年)ではエル・プリメロベースの最新ムーブメントが発表されていた。キャリバー4650Bというナンバーが与えられ、「エスパーダ」に搭載されたそれは、エル・プリメロから積算輪列を取り除いて、シンプルな3針センターセコンドとしたバリエーション。本来レピーヌ式のスモールセコンド輪列を持つエル・プリメロがベースであるから、スモールセコンド化も極めて容易だろう。ムーブメントサイズがやや大きい点を除けば、従来エリートに与えられてきた役割を、今後はエル・プリメロが担うことを意味する。即断するのは早計だが、エル・プリメロは名実ともに無二の基幹キャリバーとなったと言っていい。

 2009年にジャン-フレデリック・デュフールがCEOに就任して以降、ゼニスは急速にクラシック路線へと舵を切り直している。氏が〝ネオ・レトロ〟と表現する、ウォッチメイキングの手法によって、ゼニスは過日の落ち着きを取り戻しつつある。象徴的に用いられる「A386」を規範としたダイアルも、古典の意匠をそのまま流用するのではなく、新しいケースや機能に合わせてアレンジを加えるのが基本。バーゼルワールドに先行して発表された新しい「クロノマスター 1969」にも同様の手法は盛り込まれており、またゼニスが商標権を持つ「パイロット」の優れた完成度も、同じ文脈で読み解くことができる。

エル・プリメロ 36’000VPH –38mm

エル・プリメロ 36’000VPH –38mm
小径のラウンドケースを採用した36’000VPH。このサイズにのみ、1969年モデルに忠実な3色カウンターのラインナップがある。カレンダーの配置もオールドピースの造形に準拠。自動巻き(Cal.400)。SS(直径38mm)。10気圧防水。87万円。

エル・プリメロ 36’000VPH
現行エル・プリメロの基本形にあたるモデル。捻りを利かせたラグの肩と、重なり合うインダイアルのデザインは、1969年のオリジナルに範を取りつつ、現代的なアレンジを加えたもの。自動巻き(Cal.400B)。18KRG(直径42mm)。10気圧防水。参考商品。

 ネオ・レトロのコンセプトを昇華させ、新しいケースデザインを創出した「エル・プリメロ ストラトス フライバック」は、現在のウォッチメイキングに対する姿勢を体現するモデルだ。搭載するムーブメントは、かつてフランス空軍の監修下で製作された「レインボー・フライバック」の系譜に連なるキャリバー405B。ただし、繰り返し行われてきたさまざまな改良に加えて、2011年からの再生産バージョンでは、部品数を大幅に増やしている。基本形である旧キャリバー400の280点に対し、旧405は282点。すなわち2パーツの追加でリスターティング・フライバック機能を実現していたのに対し、405Bは全331点の部品で構成されている。基本の400Bは部品数326点なので、5点がフライバック機構に割り当てられている計算だ(全体的な部品数の増加は、デイトディスクの大型化に伴うホルダーの追加や、ジャンパースプリングの改良、巻き芯へのストッパー追加などが主要因)。機能的な差異はないが、さらなる洗練を目指し、現在でも研鑽が重ねられていることを証明した。

パイロット クロノグラフ

パイロット クロノグラフ
2011年に発表された2カウンターのエル・プリメロ。12時間積算計を廃して、アヴィエーションウォッチ(航空時計)のスタイリングを再現。ゼニスはフランスやイタリアの空軍に、軍用航空時計を納入していた。自動巻き(Cal.4002)。SS(直径42mm)。5気圧防水。参考商品。
エル・プリメロ ラトラパンテ

エル・プリメロ ラトラパンテ
文字盤の意匠が刷新されたスプリットセコンド・クロノグラフ。12時間積算計を廃して、ビッグデイトカレンダーを追加している。スプリット操作を行うプッシャーは、リュウズと同軸配置。自動巻き(Cal.4026)。SS(直径44mm)。10気圧防水。154万円。

 外装の完成度は、現在のゼニスが獲得した、最も賞賛すべき美点だろう。大振りな45.5㎜ケースを与えられたストラトスでは、肉厚な逆回転防止ベゼルをすり鉢に成形。適度にボリューム感を抑えたこの手法は、神経の行き届いたディテールワークの一例だ。また2011年から採用されている新しいフォールディングバックルも装着感に優れ、かつスライドレバーを用いて開閉させるシステムも新しい。左右からのビス留めとなったブレスレット自体も、適度な遊びと剛性感を持った、優れた仕上がりを誇っている。

エル・プリメロ ストラトス フライバック ストライキング10th

エル・プリメロ ストラトス フライバック ストライキング10th
2011年に登場したストラトスのケースに、高速運針ムーブメントを搭載。1周10秒のクロノグラフ秒針と、リスターティング・フライバック機構を装備した専用ムーブメントが新規に開発されている。自動巻き(Cal.4057B)。SS(直径45.5mm)。10気圧防水。参考商品。
エル・プリメロ ストライキング10th

エル・プリメロ ストライキング10th
2010年に発表された高速運針モデル。センターのクロノグラフ秒針は、10秒で1回転し、1/10秒計測を容易に。最新鋭のメカニズムと古典的な意匠を融合させた快作。自動巻き(Cal.4052B)。SS(直径42mm)。10気圧防水。世界限定1969本。106万円。

 しかしこうした美点はストラトスだけに限定されるものではなく、次々と刷新されるゼニスの全プロダクトに通底する要素と言えよう。「針の長さが1㎜異なるだけで、全体的な調和を壊す」と明言したジャン-フレデリック・デュフールは、細かなディテールの積み重ねから、時計の全体像を把握できる人物だ。その目に率いられた新体制下のゼニスが、完成度の飛躍を見せるのも自明である。


 運命の1969年に生まれ、時代ごとに完成度を高めてきたエル・プリメロ。完熟の域にある、このアイコニックなムーブメントでさえ、まだ進化の途上なのかもしれない。

El Primero Stratos Flyback

エル・プリメロ ストラトス フライバック

エル・プリメロ ストラトス フライバック
2011年初出。一般向けのスポーツウォッチとして再解釈された、現代版アヴィエーションクロノグラフ。レインボー・フライバックの系譜を受け継ぐ、リスターティング・フライバック機能を搭載。自動巻き(Cal.405B)。SS(直径45.5mm)。10気圧防水。91万円

3つのインダイアルを重ねるデザインは、A386を規範としたゼニスの新しいアイコン。ただし12時間積算計を一番上の層に重ねたため、30分積算計の判読性はやや落ちる。

深みのあるツヤが与えられた文字盤。視認性よりも高級感を意識した仕上げだが、蓄光塗料が施された太めのバーインデックスとの組み合わせで、意外にも良好な判読性を見せる。

Cal.405を復刻させたムーブメント。ただし再生産に際して、フライバック機構のコンポーネントが改められている。詳細は不明だが、構成パーツ数が3点ほど増えている。

新型のフォールディングバックルを備えたブレスレット。スライドレバーで開閉する方式には慣れが必要だが、不意に外れてしまうリスクは少ない。ブレス自体の剛性感は秀逸。

Contact info: LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ゼニス Tel.03-5524-6420

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