A.ランゲ&ゾーネ/1815

アイコニックピースの肖像

広田雅将:取材・文 吉江正倫:写真
[連載第26回/クロノス日本版 2015年3月号初出]

1995年にリリースされた「1815」とは、愛好家向けではなく、あくまで一般のユーザーを意識して作られた“ベーシックウォッチ”であった。
しかし1815とは、以降のA.ランゲ&ゾーネの在り方と、ドイツの高級時計作りを考えるうえで、非常に興味深いサンプルなのだ。
一見すると、デビューから何ひとつ変わっていないとさえ思わせる1815。
しかしその内実は、この20年で劇的に変質したのである。

1815 [Ref.206.032]
トランスパレントバックを初採用した標準機

1815[Ref.206.032]
1995年初出。A.ランゲ&ゾーネ初のシンプルな3針時計である。搭載するのは丸型のCal.L941系。手巻き。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18 KPG(直径35.6mm)。30m防水。参考商品。A.ランゲ&ゾーネ蔵。

 A.ランゲ&ゾーネの再興を推し進めたギュンター・ブリュームライン。復興にあたって彼が意識したのは、パテック フィリップだったようだ。2000年に彼が亡くなったため、それが事実かどうかを確認するすべを筆者は持っていない。しかし何人かの関係者は、彼はパテック フィリップとは違う打ち出し方に腐心していたと漏らす。

 それを示すのが、1994年に初めて発表された4モデルだ。ランゲ1、トゥールビヨン〝プール・ル・メリット〟、サクソニア、そしてアーケード。興味深いことに、ここには時計メーカーには欠かせないシンプルな3針のラウンドモデルがない。おそらくブリュームラインは差別化のため、まずは意図的に〝普通の時計〟を落としたのだろう。

 もっとも彼は、他との差別化だけでは大きな成功を得られないことを理解していた。事実、97年の『Uhren Austria』誌のインタビューに、ブリュームラインはこう答えている。

 「6時位置にスモールセコンドを持つ、洗練された〝バンカーズウォッチ〟には未来があるだろう」

 彼が言うところの洗練されたバンカーズウォッチが、95年に発表された「1815」であった。搭載するムーブメントは、丸型のL941.1。しかもケースバックはようやく、トランスパレントに変更され(最初期型はソリッドバックだった)、その優れたムーブメントを観賞できるようになった。実にA.ランゲ&ゾーネが、ムーブメントを見せるようになったのはこれ以降のことである。

 もっともこの3針手巻き時計は、以降もランゲ1やダトグラフほどの大きな注目は集めなかった。しかし1815は、A.ランゲ&ゾーネの〝ブレッド&バター〟として、同社の屋台骨を支える一大コレクションへと成長を遂げていく。

(左上)文字盤のデザインは1994年の「トゥールビヨン“プール・ル・メリット”」から転用された。文字盤の素材は、かつてのA.ランゲ&ゾーネにならった925シルバー。わずかに荒らした仕上げは、発表当時かなり珍しいものだった。(右上)PGケースにのみ与えられた18KPG製の針(WGケース用は18KWG製)。対してYG、そしてPtのモデルは青焼き針である。ただし袴座の強度が確保できなかったのか、あるいはRG針が変色したためか、2009年の新型1815では標準的な青焼きに変更された。(中)ケース側面。側面を裁ち落としたいわゆる“シリンダーケース”に、ボクシーなラグの組み合わせである。このモデルのケースは出荷後に磨かれているはずだが、仮に磨きが入っていなくとも、当時のA.ランゲ&ゾーネは、ケースの磨きが若干甘かった。(左下)ケースバックから覗くのは、丸型のL941.1である。デザイナーのラインハルト・マイスによるスケッチを見ると、1815はそもそもトランスパレントバックが前提であった。しかし1995年に製造された最初のロットは、裏蓋がソリッドバックである。レクタンギュラーのムーブメントを改造したため、丸穴車がかなりムーブメントの奥に置かれていることが分かる。(右下)A.ランゲ&ゾーネを特徴付ける、張り出したラグ。ただし現代の基準からすると、かなり細身だ。

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