ベル&ロス/BRシリーズ Part.2

アイコニックピースの肖像

コンストラクションの変遷高級時計へと昇華するBRシリーズ

BRシリーズを特徴づけてきた2ピースのケース構造は、2005年以降、何度か変更を受けてきた。
外観を初出時とまったく変えないまま、ラグとケースが一体化されただけでなく、やがてケース自体が3ピース化されたのである。
こうしたケース製造のノウハウを投じたのが、BRシリーズのハイエンドにあたる「BR-X1」である。

BR 01-92の展開図。一体成形されたケースや、別体のラグなどが見て取れる。興味深いのは、ムーブメントを留めるキドメさえ廃した簡潔な構造。ムーブメントは文字盤に固定された状態で、ケースに据え付けられる。いわゆる高級時計ではあり得ない設計だが、優れた加工精度を持つケースは、ムーブメントを頑強に保持する。またリュウズを支えるチューブもないが、防水性能は100mを確保している。2006年の「BR 03」ではケース構造はいっそう簡潔になり、ラグとケースが一体成形に変更されている。切削の手間はかかるが、理論上は極めて頑強なケースとなる。
吉江正倫:写真
広田雅将(本誌):取材・文
[連載第38回/クロノス日本版 2017年3月号初出]

 ブルーノ・ベラミッシュはこう語る。「時計業界はデジタルの革新を経験しました。特にコンピュータ制御で加工指示ができる多軸CNCマシンの使用においてです」。そのデザインで時計業界にインパクトを与えたBRシリーズ。しかしより巨視的に見ると、その本当のインパクトは、切削という手法でケースがどのように変わるかを、具体的に明示したことだった。

 カルロス・A・ロシロは、ジャーナリストのクリスチャン・ハーゲンにこう語っている。「成長の第2ステップは、1997年にシャネルが資本参入したことだ。2000年にシャネルはさらに資本を追加した」。会社の拡大を模索していたロシロを、ある人物がシャネルのオーナーに引き合わせた。初顔合わせの時、彼らは腕にベル&ロスの時計を巻いていたというから、ロシロは幸運だった。その間もなく後、ラ・ショー・ド・フォンに自社工場を持つことが認められ、ベル&ロスは02年からケースの内製化に取り組むこととなる。

 ちなみに2005年の時点で、切削でケースを作ろうと考えたメーカーは決して多くなかった。IWCは1990年代から取り組んでいたし、ウブロも切削を多用したケースを持つ「ビッグ・バン」をリリースしていたが、新興メーカーで採用したのは、モーリス・ラクロアとベル&ロスぐらいではなかったか。しかもBRシリーズのケースは、従来の標準的なケースと異なり、極めて野心的な構成を持っていた。具体的には、後年のアップルウォッチを思わせる、ベゼル部分でケースを分割した2ピース構造である。しかし、デザインを手掛けたベラミッシュ自身は、BRのケース構造は複雑なものではないと述べる。「BRシリーズのポイントは、ふたつの大きなパーツ、つまりケースとケーストップ(=ベゼル)のみでケースが構成されていることです。このケースにはバックケースが存在しません」。

 プレス(冷間鍛造)でケースを加工する場合、応力を逃がすため普通は裏蓋側を抜く必要がある。しかし切削でケースを作る場合、バックケースは必ずしも抜く必要がない。BRシリーズが、気密性の高いモノコックケースを採用できた最大の理由だ。加えてムーブメントを支えるためのスペーサーも省かれ、ムーブメントはケースに直接はめ込まれた。キドメさえも省略できたのは、切削で作ったケースの加工精度が高く、はめ込むだけでムーブメントを位置決めできたためだった。ケースの構造だけを見ればBRシリーズは、従来の機械式時計よりも最新のアップルウォッチに近かったのである。

 この野心的なケース構造は、明らかに切削に依存したものであり、事実ベラミッシュも〝ツール〟、つまり最新の工作機械がさまざまな課題を最適化したと述べている。

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