ブルガリ/オクト Part.3

アイコニックピースの肖像

アイコンを生み出すデザイン理論 -2-
キャラクター性を保つ高度なアレンジ

まったく別の性格を持つモデルに、共通のデザインコードを与えた例は少なくない。しかしそれらは、単にケースの厚みを変えてみたり、リュウズガードを足すような場合がほとんどだ。対してブルガリは、新しいオクト ローマにまったく異なったプロポーションを盛り込んだ。

吉江正倫、奥山栄一:写真
広田雅将(本誌):取材・文
[連載第39回/クロノス日本版 2017年5月号初出]

 かつて筆者は、時計部門の責任者であるグイド・テレーニと、ブルガリの時計作りに対する姿勢を話し合ったことがある。コストと見た目を天秤にかけた場合、普通の時計メーカーはコストを取る。しかし彼は、ブルガリは良くも悪くも見た目を取ってしまうメーカーだ、と語った。話しながらテレーニが念頭に置いていたのは、ひょっとして2017年に発表予定だった「オクト ローマ」ではなかったか。

 このモデルのお披露目の場で、ボナマッサはこう語った。「オクトとオクト ローマに共通する部品はひとつもない。ケースのデザイン要素として共通なのも、ベゼルだけだ」。普通、兄弟機を作る場合は、できるだけ部品を共通させる。しかしブルガリはすべてを新造した。関係者のコメントを集めると、理由は容易に想像できる。生産体制が整った今なお、オクトの生産性はお世辞にも高いとは言いがたい。ケースは110もの面を持ち、しかもそれらにはほとんど筋目仕上げが施され、かつ完全に歪みなく接しているのである。現行品のケースとしては、間違いなくもっともコストのかかったもののひとつだ。某メゾンのプロダクトマネージャーが「オクトはコストがかかりすぎ」と述べたのは、「見た目を取ってしまう」ブルガリには最上の褒め言葉だろうが、その低い生産性は、オクトの納品を待ちわびるユーザーには問題となった。

 オクト ローマとは、オクトの意匠を受け継ぎつつも、生産性を考慮し、かつ〝モア・ドレッシー〟に仕立て直されたモデルである。そのために彼が加えた手直しは、実に繊細なものだった。もっとも顕著なのが、ラグとベゼルの角度だろう。そもそもオクトは極めて立体的な時計であり、ケースの面を省いても、立体感はなお余りある。そこでボナマッサはケースの面を減らすと同時に、ラグとベゼルの斜面を倒すことで、時計をフラットに仕立てなおした。

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