ブレゲ / マリーン Part.2

アイコニックピースの肖像

第3世代マリーンの嚆矢となった
[コンプリケーション総覧]

スポーツウォッチ以上のパフォーマンスを持つが、あえてスポーティーさを抑えた第3世代のマリーン。こうした性格を最もよく示すのが、ラインナップに加えられた3つのコンプリケーションだろう。トゥールビヨンとクロノグラフ、そしてアラーム。これらのモデルが示すのは、ブレゲのさじ加減の巧みさだ。

吉江正倫:写真
広田雅将(本誌):取材・文
[連載第51回/クロノス日本版 2019年5月号初出]

マリーン エクアシオン マルシャント 5887

マリーン エクアシオン マルシャント 5887
「マリーン」の先駆けとなった超複雑時計。永久カレンダーに連動した均時差表示と自動巻きトゥールビヨンを備える。自動巻き
(Cal.581DPE)。57石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt(直径43.9mm)。10気圧防水。2494万円。

 2018年にリリースされた第3世代のマリーン。その先駆けとなったのが、17年発表の「マリーンエクアシオン マルシャント 5887」である。永久カレンダーに、常に均時差を表示するランニングイクエーションを加えたこのモデルは、腕時計サイズではあるが、理論上は最も完成されたマリン・クロノメーターといえる。実際に使うかはさておき、時分針と真太陽時とのズレを表示する均時差表示、そして永久カレンダーを併用すれば、補助器具を使うことなく、現在地の経度を知ることが可能だ。

 嚆矢となったこのモデルが示す通り、第3世代のマリーンは、スポーティーさを強調した前作とはいささか異なるキャラクターを持つ。これは、他のコンプリケーションも同様である。「クロノグラフ 5527」は、フライバック付きの自動巻きムーブメントを載せたモデル。すでに述べた通り、そのムーブメントは、生半可なスポーツウォッチを凌駕するほどの性能を持つが、ブレゲはクロノグラフ5527にスポーツウォッチ然とした外装を与えなかった。針やインデックスは太くなり、夜光塗料も盛られたが、一方でベゼルは細身に仕立てられ、マリーンのアイコンであったリュウズガードも廃された。スポーティーに使えるよう、ラバー製のストラップは付いているものの、手触りは高級機に相応しくソフトだ。スポーティーだが過剰ではない、という微妙なさじ加減は、第1世代のマリーンを思わせる。

「アラーム ミュージカル 5547」も、やはりスポーツウォッチとは異なるキャラクターが際立っている。写真のモデルは、よりインフォーマルな性格を持つチタンモデル。しかし、文字盤からは波状のギヨシェ仕上げは省かれ、ブレゲのロゴを中心に、放射状の仕上げが与えられた。またケースも、チタン製とは思えないほど、高級機然とした仕上げを持っている。手に持たない限り、これがチタン製と分かる人は、まずいないのではないか。ブレゲがこれを、ドレスウォッチと見なしていないことは明白だが、しかしディテールに目を凝らすと、スポーツウォッチとは異なることが分かる。

 新型マリーンのユニークな方向性は、搭載するムーブメントでいっそう顕著だ。アラームムーブメントのキャリバー519は、2003年にブレゲが開発したものの改良版。3時位置のサブダイアルでアラームの設定、8時位置のボタンでアラームのオン/オフを行うといった基本は同じだが、マリーンに載せるにあたってセンターセコンド化された。

 ちなみにスポーツウォッチにアラームを載せるのは、一般的には禁忌とされている。強い衝撃を受けると、ケースと当たって音が鳴るためだ。加えてこのムーブメントは、優れた音量・音質を与えるべく、アラームを鳴らすハンマーとゴングは限界まで大きくなった。スポーツウォッチにはまったく向かないであろうこのアラームムーブメントを、あえて搭載した点に、ブレゲが新しいマリーンをどうしたかったのかが見て取れよう。

 もっともそこはブレゲ、ただ載せたわけではない。というのも、マリーンでの採用にあたって、ブレゲのR&Dチームは、519のゴングの剛性を高め、ケースと接触しにくくしたのである。これならば、強いショックを与えても、勝手に音が鳴りにくいだろう。こういう改良を加えると、理論上は音質が悪化する。しかし聞き比べた限り、そうなっていないところもまた、今のブレゲらしいではないか。

 シーンを選ばずに使えるだけでなく、ユニークなコンプリケーションを載せるに至った、第3世代のマリーン。かつてデザインでスポーティーさを強調したマリーンは、今やブレゲの成熟を反映する、一大コレクションへと成長を遂げたのである。

Recommend おすすめ記事

News ニュース