ミニッツリピーターとは? その歴史と代表的モデル

時計機構論

ミニッツリピーターの革新

 ミニッツリピーターは、永久カレンダーやトゥールビヨンと並んで機械式時計における古典的な3大複雑機構に数えられる。この中で最も古くからあり、伝統的なスタイルを今なお守っているのがミニッツリピーターと言える。上記のように、時刻を音に変換するためのカムの仕組み、ハンマーとゴングによるチャイム音、時間・15分・1分の組み合わせによる時刻表示など、基本的な作動原理と機能は懐中時計の頃とほとんど変わりない。伝統的な機械式時計が現代の先端技術によって進化し続ける中で、ミニッツリピーターだけがそのような潮流の外にあって、悠然と我が道を歩んでいるかのように見える。しかし、最近になって興味深い革新が続々と登場してきて、にわかに活気づいてきた。これからいくつか紹介しよう。

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ」

 まずひとつが音響科学的なアプローチである。筆頭は2016年にオーデマ ピゲが発表した「ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ」だ。トゥールビヨンとクロノグラフにミニッツリピーターを組み合わせたこのモデルは、「スーパー」と名乗るだけあって、発する音が従来品より格段に大きいのが特色。鐘に相当するワイヤー状のゴングをムーブメントに固定するのではなく、時計部分から独立させ、特殊なハーモニーテーブル(音響盤)に取り付けて反響音を増幅させるという仕組みだ。バイオリンやギターのように、弦の振動がサウンドボード(表板)を伝ってボディの鳴りを生むのと同原理である。

ショパール「L.U.C フル ストライク」

 ショパール マニュファクチュール20周年を記念して2016年に発表された、同ブランド初のミニッツリピーター「L.U.C フル ストライク」は、サファイアクリスタルでまさに透明感のあるクリスタルサウンドを実現する、これまたユニークな設計である。一般的なスティール製ゴングに代わり、このモデルではサファイアクリスタルで作られたリング状のゴングが用いられ、さらにこのゴングと時計の風防が一体構造で、ひとつのサファイアクリスタルの塊から加工したという斬新な設計だ。また、ケース横にリピーター作動用のスライドボタンを持たず、モノプッシャー・クロノグラフのように、リュウズ同軸にそれを格納している点をはじめ、時間の数取りやガバナー、安全装置などにもさまざまな工夫が凝らされている。見た目はクラシカルなミニッツリピーターだが、技術的にはハイテクを駆使してリファインした極めて現代的な作品である。

A.ランゲ&ゾーネ「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」

ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター

A.ランゲ&ゾーネ「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」
ディスクを巧妙に用いた瞬転数字式のデジタル時刻表示に、1時間・10分・1分単位による10進法ミニッツリピーター機構を組み合わせる。聞き取ったゴングを打つ回数が、ダイアルから読み取れる1時間・10分・1分単位を表示する各数字と同じなのが最大の特色。通常の円環とは異なる形状のゴングや、左右対称に配置された2本のハンマーも独特だ。2015年発表。手巻き(Cal.L043.5)。93石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約36時間。PT(直径44.2mm)。価格問い合わせ。㉄A.ランゲ&ゾーネ ℡03-4461-8080

 ユニークさにおいては、A.ランゲ&ゾーネの「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」(2015年)も見逃せない超大作。「ツァイトヴェルク」特有の大型デジタル表示にミニッツリピーター機構を加えたものだが、音による時刻表示が時間・10分・1分単位になっている点が古典的なミニッツリピーターと大きく異なる。従来のように時間数と1桁の分数の間に15分単位のクォーターが置かれていると、分数を知るには、例えば(15×1)+3=18とか、(15×3)+7=52と計算しなくてはならないが、このモデルのように10分単位ならより直観的に把握しやすい。ダイアル面に配されたハンマーとゴングのデザインも唯一無二の個性を演出している。

超薄型

 また機構とは別に、ミニッツリピーターにおいても「超薄型」のトレンドが見て取れる。最近のモデルで記憶に新しいところでは、2013年発表のヴァシュロン・コンスタンタン「パトリモニー・エクストラフラット・ミニットリピーター」だ。手巻きミニッツリピーターでムーブメント厚3.90mm、ケース厚で8.10mmという極薄である。翌年にはジャガー・ルクルトからケース厚7.8mm、自動巻きのミニッツリピーターとして世界最薄の「マスター・ウルトラスリム・ミニッツリピーター・フライングトゥールビヨン」も登場。世界最薄記録の樹立に拍車がかかった。

 そしてこの世界最薄記録を2016年に更新したのがブルガリの「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」だ。「オクト」特有の複雑な多面体で構成されるケースはチタン製で厚さはなんと6.85mm。厚さ3.12mmの超薄型手巻きミニッツリピータームーブメントは伝統的な設計を踏襲するが、チタン製ダイアルのインデックスをスリット状にくりぬくなどの工夫を凝らして音響効果を高めた。外観を見ただけでは、ミニッツリピーター搭載とは信じがたいほど薄く、もはやこれ以上の薄型化は限界かと思われる。

オクト フィニッシモ ミニッツリピーター

ブルガリ「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」
最近のミニッツリピーター薄型化競争で2016年に世界最薄記録を樹立したのがブルガリのこのモデル。サンドブラスト加工を施したチタンによるケースは厚さ6.85mm、内部に3.12mmの超薄型手巻きミニッツリピータームーブメントを収める。音の拡散を意図したチタン製ダイアルもユニーク。手巻き(Cal.BVL362)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti(直径40mm)。数量限定。1789万円。㉄ブルガリ ジャパン ℡03-6362-0100


絶対王者とも言うべき名声を誇るパテック フィリップ

 さて、ミニッツリピーターを締めくくるにあたって、もうひとつ注目すべきモデルがある。パテック フィリップが175周年を記念して2014年に発表した限定品の「グランドマスター・チャイム5175」とその流れを汲む現行品「グランドマスター・チャイム6300」だ。長年にわたりクラシカルなミニッツリピーターの、いわば絶対王者とも言うべき名声を誇るパテック フィリップだけに、それらは「鳴り物時計」の集大成ともいうべき超大作である。3つのゴングを搭載するリピーター機構は、任意の操作により時刻を音で告げる通常のミニッツリピーターや、時計が時刻を自動的に音で告げるグランソヌリおよびプチソヌリに加え、それ以外にリピーター機構を応用した極めて独創的な複雑機能が備わる。ミニッツリピーターと同一のメロディーと音質で奏でるアラーム機能と、日付の10の位と1の位を音で表現する世界初のデイトリピーターだ。

グランドマスター・チャイム6300

パテック フィリップ「グランドマスター・チャイム6300」
175周年を記念して2014年に発表された限定品の「グランドマスター・チャイム 5175」を継承しながらデザインをシンプルに仕立てた現行品は、ミニッツリピーターに加え、グランドソヌリおよびプチソヌリ、リピーター機構を応用したアラームや日付を音で表現する世界初のデイトリピーター機能などを含む20の複雑機能をダブルフェイスに統合した驚異のスーパーコンプリケーション。手巻き(Cal.GS AL 36-750 QIS FUS IRM)。108石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径47.4mm)。受注生産・時価。㉄パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター ℡03-3255-8109

 以前にも述べたように、照明の乏しい時代に暗闇でも時刻を知るために考え出されたリピーターウォッチの道具としての実用価値は、とうに過去のものになっている。しかし、複雑時計技術の金字塔として今なおもてはやされるのは、やはり作り手と愛好者の双方にこの特別な機構への尽きぬロマンがあるからだろう。

パテック フィリップ「トゥールビヨン・永久カレンダー搭載ミニット・リピーター Ref.5307P」

https://www.webchronos.net/movie/11560/

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