広田雅将編集長のSIHH2019雑感③

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新しい「マスターシリーズ」のスペックは下記から
マスター・ウルトラスリム・パーペチュアル エナメル
マスター・ウルトラスリム・ムーン エナメル

Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

JLC復活か? 新しい「マスター」に見る大きな可能性

 筆者はジャガー・ルクルトが好きだし、それは大多数のクロノス読者も同じだと信じている。しかし、ジェローム・ランベールがモンブランのCEOに転任し、加えてスタッフを根こそぎ引っ張っていった結果、ジャガー・ルクルトはガタガタになってしまった。ダニエル・リエドは優れたCEOだったが、空洞になったジャガー・ルクルトをまとめるには、少し荷が重かったように思う。

 しかし、さすがにジャガー・ルクルト。2019年の新作を見る限り、ようやく立ち直ったという感が強い。もちろん、新しいジャイロ5は素晴らしいし、本誌でも詳細に取り上げる予定だ。しかし、一層見るべきは、普通のマスターシリーズである。

 今年、マスターシリーズには3つの新作が加わった。ケースは18KWG、文字盤はエナメルとかなり凝っているが、むしろ重要なのは中身のほうだ。長らくジャガー・ルクルトは、Cal.975とCal.899という自動巻きムーブメントを多用していた。初出は2005年と06年。設計者は、ジャガー・ルクルトの誇るロジャー・ギニャールである。これらのムーブメントは頑強で精度も良く、巻き上げ効率も高かったが、それぞれ問題があった。前者はセンターセコンドにできなかったし、後者はパワーリザーブが短く、針合わせの際、簡単に針飛びを起こした。

 今年の新作である「マスター・ウルトラスリム・パーペチュアル エナメル」と「マスター・ウルトラスリム・ムーン エナメル」には、その899の改良版が載ったのである。誰も騒がないだろうが、筆者にとっては大ニュースだ。大きな違いはパワーリザーブ。従来は約38時間しかなかったが、なんと約70時間に延びたのである。大きな理由は、新しく採用されたシリコン製の脱進機。慣性が小さいため、駆動ロスははるかに小さくなり、理論上のパワーリザーブは大きく延びる。また、針合わせの機構が改良された結果(詳細は本誌で書く予定)、889/899系の問題であった針飛びが解消されたのである。

 ジャガー・ルクルト曰く、新しい899系は、まだ今年のモデルにしか搭載されないとのこと。しかし今後、改良版は、さまざまなモデルに転用されるはずだ。そうなれば、マスターシリーズの魅力はぐっと増すに違いない。もっとも、ムーブメントの仕上げは今後もジャガー・ルクルトの課題であるだろう。個人的には、ムーブメントの基礎性能が上がったのち、美観にも手が入れられることを強く期待したい。今のジャガー・ルクルトならば、決して不可能ではないはずだ。



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https://webchronos.net/sihh2019

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